高齢者の潜在能力を活用した援助方法の効果を明らかにする

陶山先生私は、疾患や障がいをもち何らかの介護を必要としている高齢者いわゆる要介護高齢者の方々が、心地よく排泄できるためにはどのような援助が必要かを明らかにする研究に取り組んでいます。「排泄だけは最期まで自分でなんとかしたい。」これは、誰もが考えることだと思います。それゆえ、排泄を人に委ねることは、その人の生きる意欲にも関わる重要な問題だと考えます。しかし、要介護高齢者の方々は、施設や病院そして在宅でもオムツを使って排泄している割合が高く、施設では8割ともいわれています。こうしたオムツでの排泄はやむを得ない場合もありますが、安易にオムツを使用し、オムツに頼りすぎる排泄援助によって起こっている場合もあります。
 では、オムツに頼りすぎないためにはどうすればよいのか、介護する家族の負担や施設のマンパワーの問題も考慮しながら、その援助方法を明らかにしていく必要があります。これらの課題について、一つひとつ取り組んでいます。
 

前で支えらるトイレ

前で支えらるトイレ

 排便に関しては、便秘のために下剤を使用しコントロールできなくなり、失禁しているという状態も少なくありません。実態調査を実施することで、高齢者施設の便失禁の多くが下剤の使用と関連することを明らかにしてきました。下剤を減らして便の形状を整えることで、心地よい排泄が可能になると考えられていますが、単に下剤を減量するだけでは、便秘が悪化しますので、それに代わる方法を考え検証することが必要です。そして、失禁をくりかえす便意を訴えられない重度の認知症の方でも、排便反射の機序などを踏まえ、本人の意思を確認しながら、座りやすいトイレ環境を工夫するなど方法を検討し、トイレへ誘導することで、トイレで排泄が可能となることを明らかにしています。

 

調査に用いた測定器

調査に用いた測定器

 また、排尿に関しては尿意が不明であることで、排尿のタイミングがつかめずオムツに失禁となりがちです。しかし、認知症によって生活行動に障害が生じていても、長年感じてきた尿意の感覚やトイレ動作は失われていないことがあります。ただ、その人の尿意の表出方法やタイミングを看護者が理解することは必要です。こうした考えに基づき、1回排尿量、失禁量や残尿量を測定し膀胱機能を客観的に評価するとともに、尿意を訴える機会をつくり、尿意の訴えを待つことで、常にオムツに失禁していた高齢者が、尿意を訴えトイレで排泄が可能になることを、介入研究を行うことで明らかにしてきました。

 

研究の特色

 これまでの研究の基盤となっているのは、現場で実際に生じている排泄ケアの困りごとでした。そして、一人ひとりの排泄の困りごとをどうすればいいのかを考えることが、介入研究を始めるきっかけとなっています。そして、排泄障害の原因やこれまでの研究で明らかにされている援助方法と現象を照らし合わせながら援助方法を考え、研究を行っています。研究としての厳密性を保証することは困難ですが、ケースを積み上げていくことで、一般化できる援助方法を確立することができるのではないかと考えています。

検討事例

検討事例

 そして、この研究を支えてくれたのが、えひめ排泄ケア研究会の活動だと思います。高齢者施設などで排泄ケアを実践し、問題意識をもって会に参加して下さる人たちと問題を共有しながら、効果のあったケア方法について情報交換してきたことがこれまでの研究の活力になってきたと考えます。

排泄ケア研究会

排泄ケア研究会          排泄ケア研究会マニュアル

研究の魅力

 排泄と聞くとあまり良い印象をもたれないかもしれませんが、排泄が上手くいった時の高齢者の方々の表情をみると、大変な達成感や充実感を感じることができます。排泄の問題を解決することは、単に身体的な不快感を軽減するだけでなく、その人の人としての尊厳を取り戻すきっかけともなり、生活意欲が高まるなどその他の生活行動にも変化が見られます。そして、研究に協力してくれた介護者の方とも喜びを共にすることができます。こうしたかけがえのない経験がこの研究の魅力だと思います。

研究の展望

 排泄ケアの研究に取り組む中で、オムツを換えているほうが楽という介護する側の意識の問題が高い壁になることがあります。こうした介護する者の意識の変容も視野に入れた研究も考えたいと思います。
 排泄に関わる中で、要介護高齢者の方々のもつ生活する力を感じています。排泄だけではなく、様々な生活行動の中で、高齢者の潜在する力を発揮できる援助方法を明らかにしていきたいとも考えています。

この研究を志望する方へ

 介護を必要とする高齢者の方々は、治療ではどうすることもできなくても、生活援助の方法や関わり方によって、大きく変化されることがあります。高齢者ケアは、生活の仕方が重要で、看護の腕の見せどころだと感じています。関わることの効果は、見えにくく、伝わりにくいものです。研究としてどのように形にしていくのかという課題は多いのですが、それに取り組むことはやりがいのあることだと思います。