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平成22年度科学研究費補助金採択 ?地球深部ダイナミクス研究センター 平井寿子グローバルCOE教授?

平成22年度科学研究費補助金に採択された平井寿子グローバルCOE教授からメッセージをいただきました。

科学研究費補助金 基盤研究(A) 平成22年度採択課題
メタン及び水素ハイドレートの低温?高温高圧下での物性変化と氷天体内部構造の推定
地球深部ダイナミクス研究センター グローバルCOE教授 平井 寿子

 水素は宇宙において最も多く存在し、元素の存在度からすると太陽系の主要な構成成分は水素をはじめとするガスや氷といっても過言ではありません。実際、これらの水素やメタン、氷からなる水素ハイドレート(HH)やメタンハイドレート(MH)が近年太陽系の惑星?衛星や恒星の初期過程である原始星に存在する可能性が次々に報告されています。これらの氷惑星?衛星の内部構造や状態は主に探査機による分光学的?物理学的測定や理論計算によって推定されてきましたが、実験的な検証はほとんどなされていませんでした。そこで、HHやMHを氷天体内部に相当する低温高圧から高温高圧の条件下におき、これらの相変化や物性変化を実験的に明らかにし、これらの知見を基に氷惑星や衛星の内部構造を推定し、進化過程を検討するのが本研究の概要です。
 MHは、地球においては燃える氷と呼ばれ、次世代のエネルギー資源として期待される半面、メタンはCO2より高い温室効果を持つ物質でもあります。実際、地球46億年の歴史で大規模な環境変動(例えば生物の大量絶滅をもたらした温暖化)にかかわったことが近年明らかにされています。一方、太陽系においてはタイタンをはじめとする氷衛星や彗星に存在の可能性が探査機によって報告され、氷天体の主要な構成成分と考えられています。HHは原始星に存在の可能性が報告され、また、太陽系内の氷天体ばかりでなく、近年相次いで発見されている系外惑星にも広く存在する可能性があり、惑星科学的に極めて重要な物質と考えられるようになってきました。また、水素がクリーンなエネルギー資源であることから、HHは水素貯蔵媒体としても注目されています。
 従来のガスハイドレート研究は資源開発を目的とするものが多く、1GPa(1万気圧)以上の高圧物性を調べる基礎研究はほとんど未開拓でした。私たちはガスハイドレート研究にダイヤモンドアンビルセルという高圧発生装置を導入し、MHの1GPa以上の挙動を世界で初めて報告しました。その後、いろいろな科研費の補助を受け、MHとHHの高圧相変化や物性を明らかにし、海王星やタイタンにおける存在状態を推定してきました。これまでは主に室温下での高圧物性を研究してきたが、氷天体と言えども質量が大きくなる深部は数千Kの高温となり、一方、小さい氷天体の浅部では極低温となっています。従って氷天体内部の物質の状態を理解するためには、低温から高温まで温度領域を広げる必要があります。本研究ではこれまで蓄積した知見をふまえ、温度圧力領域を広げハイドレートの高圧物性を明らかにし、太陽系?宇宙に存在する氷天体内部の構造や状態を推定し、氷天体進化のモデリングに束縛条件を与えて生きたいと考えています。
 若い研究者のみなさんへ一言申し上げるなら、この研究は絶対いい研究だと思い込むこと、そして書いた後は3日ほど頭を冷やして丁寧に文章を練ることでしょうか。