通常我々の身の周りにある物質の多くは有機物であり、そのほとんどは電気も流さないし(「絶縁体である」、または「伝導性がない」という)、磁石に吸い寄せられる性質(磁性)もありません。一方、現在の遠隔制御(リモート?コントロール)や光通信、記憶媒体などにおける各種デバイス部品は、金属などの磁性または伝導性のどちらかの機能を主に利用しています。もし、そのままでは何の機能も持たないが、光を照射することで磁性と伝導性が同時に発現する物質があれば、光照射をスイッチのように使ってそれらの機能を発現させたり消失させたりできます。こうした物質は、磁性と伝導性の両方の機能を記憶や情報処理に使えるため、上述の現行デバイス部品の機能を格段に広げる可能性があります。しかしこれまで実例は知られていませんでした。
内藤教授を中心とする研究グループは新しい有機物質を合成し、これを実現しました。この物質は紫外線を照射することにより、物質内で一種の化学反応が起こります。その結果、絶縁体から金属のような伝導性と磁性を持った物質に変わります。紫外線を消すと、また元の機能のない状態に戻ります。しかも実際に流れる電流はごくわずかであるため、電力消費を抑えたうえで、より高度な情報処理をより高速に行える可能性があります。実験データからは、これまで知られていた光と伝導性との関係とは異なる新しい機構でこうした現象が起こっていると考えられています。その機構をさらに詳しく調べ、応用に向けて研究を進めていく予定です。
なお、この研究成果は、アメリカ化学会誌「ジャーナル?オブ?アメリカン?ケミカル?ソサエティー」及び学術雑誌「アドバンスト?マテリアルズ」に掲載されることになり、それぞれ9月4日(火)、9月11日(火)からオンライン速報版で公開されています。
※この物質はA、Bという二種類の分子からなります。電圧をかけた状態で紫外光(UV)が当たると、分子Aの配列を貫く電流が発生し、同時に別の分子B一個一個が小さな磁石のように働きます(左側の図)。光の照射と停止を一定時間間隔で繰り返すと、それに応答して右側のグラフのように電流(縦軸)の値が(ほとんど)0と一定の値との間で切り替わります。磁性に関しても、紫外線照射の有無で明確に切り替わることが電子スピン共鳴などの実験で確認されました。
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