平成24年度科研費に採択された医学部附属病院 大嶋佑介助教からメッセージをいただきました。
科研費 若手研究(A) 平成24年度採択
生体の非線形光学効果を利用した無染色イメージングの医療応用のための基礎基盤研究
医学部附属病院 助教 大嶋 佑介
光と分子の相互作用を利用して生体組織や細胞内の分子を可視化する「バイオイメージング」技術は、機能を知りたい蛋白質を緑色蛍光蛋白質(GFP)などによって蛍光標識することを可能にした遺伝子工学技術とともに、近年の基礎医学研究の発展に大きく貢献しています。例えば、レーザー走査型蛍光顕微鏡などを用いたライブセルイメージングは、蛍光標識した蛋白質分子のダイナミクスを非常に高い空間分解能で観察することを可能にした技術です。医学研究においては、がんなど様々な疾患の発症メカニズムを解明し、早期診断、治療や創薬に繋げる研究が行われています。
しかしながら、生体内の分子の構造や機能を解析する研究手法として、蛍光標識による分子イメージングは万能ではありません。まず、遺伝子操作によって蛍光標識することができるのは、遺伝子がコードしている蛋白質に限られますので、この手法では蛋白質以外の生体分子、例えば脂質や糖分子、その他の分子を標識することはできません。また、蛍光標識した蛋白質が、必ずしも本来の機能をそのまま維持しているとは限りません。
そこで、蛍光標識せずに直接分子からシグナルを得る方法の一つとして、非線形光学効果を利用した無染色イメージング技術に着目しました。非線形光学効果とは、光エネルギー密度が極めて高い状態におかれた分子が、入射光強度(入射電場)の大きさに対して非線形な応答を示す現象のことをいいます。私たちの研究では、生体に害が少ない近赤外波長域の超短パルスレーザー光源と、微弱な光信号を波長成分ごとに検出するための高感度分光システムを搭載した新規イメージングシステムを独自に設計?製作し、生物顕微鏡への応用を目指しています。非線形ラマン散乱、高調波発生および多光子励起自家蛍光などの非線形光学に基づいた分子イメージングによって、がん組織やがん細胞の網羅的に解析し、悪性化や転移能獲得に関わる分子のシグナルを捉えることができれば、発がんメカニズムの解明や早期診断、抗がん剤など治療法の開発へとつながり、基礎研究と臨床応用を橋渡しする革新的な技術となることを信じて研究に取り組んでいます。
研究者誰しもが大きな目標や夢に向かって日々研究を行っていると思います。私もその研究者のひとりですが、現実問題としてその夢を叶えるためには研究費が必要不可欠です。明確な目標を持ち、培ってきた知識や技能を生かして、目標達成のための道筋を示すことができるよう、今後も研究に取り組んでいきたいと考えています。