平成24年1月4日(水)、南加記念ホールにおいて、柳澤康信学長が、教職員を対象として年頭のあいさつを行いました。
皆さん、明けましておめでとうございます。
昨年は申すまでもありませんが、東日本大震災という日本人にとっては生き方の根幹を揺るがすような大事件があったわけですが、それと同時に人と人とのつながりの重要さということも認識された年ではなかったかと思います。今年は、東日本大震災からの本格的な復興が始まると思います。足球即时比分_365体育直播¥球探网として、昨年は医療を中心に支援してきましたが、今後はもっといろいろな分野、例えば三陸の水産業の復興、あるいは放射能除染への支援などについても総力を挙げてやっていきたいと思っております。
また、大学運営という点から考えてみますと、いま日本の政治が非常に不透明な状況にあり、その中で各大学がきちんとしたビジョンをもって運営していかなければならないという、非常に難しい局面にあると思っております。
私が3年前学長に就任した時に、「高い組織力を備えた大学づくり」を目標に掲げました。また去年の11月、学長に再任されたときの所信表明でも、「組織力を高める」と申し上げましたけれども、今日はそれに関する考え方や理念についてお話ししてみたいと思います。少し分かりにくいところもあるかと思いますが、我慢して聴いて下さい。
最初に、年末に平成24年度の大学予算がほぼ決まりましたので、それについて紹介しておきます。2番目として、いま言いました「高い組織力を備えた大学」ということについてお話します。それから3番目は、今後の主な施策?課題についてですが、これに関しては11月の所信表明とほとんど同じ内容になっています。
平成24年度の大学予算については、ご存知の方も多いと思いますが、運営費交付金が国立大学の総額で1兆1366億円となり、前年度より161億円の減となっています。これは予想したよりは少ない減額でした。それから大学改革促進係数、これは附属病院を有する法人は前年度比1.3%減ということで、今年度に引き続き減額されることになっています。授業料免除率については少しアップしています。また、前年度と名称は違いますけれども、教育研究力強化基盤整備費というかたちで、運営費交付金とは別に、前年度は58億円措置されていたものが、43億円措置されます。それから、これはあとで詳しく説明しますけれども、「国立大学改革強化推進事業」ということで138億円新設されております。この事業の趣旨が、いま文部科学省が重点的に推し進めようとしている施策を非常にコンパクトに表しているのではないかと思います。
その内容ですが、1つは、新たな教育研究組織の整備に必要となる経費、もう1つは大学の枠を超えた連携への支援。この2つがキーフレーズとなっております。こういったことに真剣に取り組む大学に対して重点的に支援するということです。もう少し具体的に見ていきますと、「教育の質の保証と個性?特色の明確化」というところで、教育審査を伴う学部?研究科の改組、それから双方向の留学拡大のための抜本的制度改革が謳われております。教育審査を伴うというのは学部以上の改組、かなり大がかりな改組のことを言っていると思われます。いま足球即时比分_365体育直播¥球探网では、文系の学部を2学部から3学部に再編することについて、ワーキンググループで検討してもらっていますので、こういった方向性というのは、我々にとって追い風になるかもしない、あるいはならないかもしれませんけれども、これは注意深く見守っていく必要があると思います。それから、「大学間連携の推進」として、地域の大学群の連合?連携、また大学の枠を超えた連携による教育研究の活性化ということが謳われています。1年前の私の新年挨拶で、連携やネットワーク化を強調しましたが、そういったことがここでも謳われております。それから、「大学運営の高度化」については、大学情報の一元管理と適切な活用による運営体制の強化と謳われていますが、これはIR(Institutional Research:大学における諸活動に関する情報を収集?分析することで学内の改善活動を支援し、外部に対して説明責任を果たす活動)というようなことが、かなり前面に出てきています。足球即时比分_365体育直播¥球探网としてもこれらを念頭に置きながら、この予算を獲得するように努めると同時に、いま文部科学省がこういう方向性で動こうとしているということを認識しておく必要があると思います。
足球即时比分_365体育直播¥球探网分の予算については、運営費交付金は全体で133億7800万円ということで、前年度比で3億400万円の減となっております。その中で、例年だと足球即时比分_365体育直播¥球探网は7~8億円ぐらいあった特別経費がかなり減っています。特にプロジェクト分といわれる部分が厳しく査定されています。「先端プロテオ医学研究の展開」と「地球に学ぶ物質科学の学際的展開」は継続して措置されました。「地球温暖化と化学汚染の地域連携研究」は沿岸センターの新規プロジェクトですけれども、これまでに比べて大幅に減額されています。それから、「教員養成機能の充実」というのは、教育学部と附属学校園のプロジェクトですが、これに新たにいくらか措置がされることになりました。
「教職員能力開発拠点」は教育企画室が前年度から指定されていて、それに今年度と同額措置されております。あとは、障害学生支援にいくらか措置されています。
法人活性化支援分という経費が5600万円ほど措置されていますけれども、これについて少し説明しておきたいと思います。第1期すなわち平成16年から21年度までの国立大学法人の最終的な評価結果が前年度に出ていますが、これは、その評価に基づき、評価の良かったところに措置して、悪かったところには措置しないという経費です。評価結果をポイント制にして、37ポイント以上のところには措置し、さらにポイントが高くなるにしたがって加算されているそうです。足球即时比分_365体育直播¥球探网のポイントは37ポイントでした。ちょうどサポートしてもらえるギリギリの線。たぶん中位より上の大学であったということだと思います。
それから附属病院については、2億5180万円措置されています。先ほど言った大学改革促進係数では1.3%減になっていますが、これによって1億円強の減となり、段々ボディブローのように効いてきています。
施設整備では、国立大学全体で言うと915億円の予算で、前年と比べて478億円の増。ほぼ倍増になっています。一般会計はそれほど増えてないのですが、新たに復興枠として446億円措置されたのが効いています。国立大学全体で、230ぐらいの事業に予算がついたわけですが、足球即时比分_365体育直播¥球探网は、幸いこの復興枠で、工学部の講義棟、理学部の講義棟、持田地区の附属特別支援学校の改修という3つの事業が採択されました。工学部と理学部が講義棟を改修するということで、改修期間中の授業をどうするか、かなり深刻な問題になると思います。これについては、いま両学部と施設基盤部で調整をしてもらっています。
それでは、ここから2番目の「高い組織力を備えた大学」再考に入りたいと思います。11月末の所信表明の時に、高い組織力を備えた大学づくりということを申し上げました。その中で、足球即时比分_365体育直播¥球探网は法人化前後から様々な取組みを行ってきて、高い組織力を備えるような方向に施策がなされているとお話しました。例えば、全学の運営体制を学長に一本化していること、それから、教員間の緩やかな機能分化、例えば教育重点型教員、実務家教員がバランス良く配置されているということ、また、法人化以前から学部の枠を超えた全学センターを設置していることなどです。地方の大学で、全学センターが非常に多く、バラエティに富んでいるのは、足球即时比分_365体育直播¥球探网の1つの特長だと思います。さらに最近では、全学的機能を4つの機構で分担するかたちになっていることも特長です。それから、教員組織と事務組織の連携、すなわち教職協働の推進、さらに理事(機構長)を中心としたラインが明確化になっています。こういったところが特長ですが、今日はこういった制度が実際にどうなっているかというよりも、高い組織力を実現するためには、どう考えたらいいのか、どういう理念をもつべきなのかといったことについて少しお話します。
私は、法人化前、法人化後も含め、10数年前の鮎川学長の時代、それから小松学長の時代、そしてここ3年間ぐらいを含め、これまで組織運営に関する「暗黙的知恵」が受け継がれてきていると理解しております。その「暗黙的知恵」とは、これまで明示的には示されていませんが、『「良いもの」を伸ばす』、『対症療法ではなく本格対応を』、『施策?制度の総合的運用を』、そして『組織全体の一体感と部署の独自性』の4つです。『組織全体の一体感と部署の独自性』というフレーズについては、外部の人に本学の教育改革などに関する話をするときによく使ってきました。大学全体として法人化後、一体的な改革は必要になっていますが、その一方で、学部?部局の独自性というのも当然尊重していかなければいけない。その両者をどう両立させるかが問題です。
では、『「良いもの」を伸ばす』と『対処療法ではなく本格対応を』について、少し具体的に話をしたいと思います。
今からもう12~13年前になりますが、鮎川学長の頃に、学長直属で各学部から1人ずつ、教育学部については3人が選ばれて、「教育活動評価に関する研究会」が発足しました。これが、私が全学に関わった初めての経験でした。そういう意味では、これは私にとっては原点のようなものです。メンバーは、例えば教育学部でいうと、研究会の座長を務められた渡邊弘純元教育学部長、それから壽卓三現教育学部長、さらに山本久雄教授でした。そのほか、工学部では井出敞前学部長などのちに全学あるいは学部の責任者になった人が多い。そういう意味では、足球即时比分_365体育直播¥球探网の教育あるいは評価に関する原点ともいえる研究会であったのではないかと思っています。この研究会は、最終的に30ページほどの報告書を提出しました。こういった学長直属の研究会がもたれたのは、最初で最後ではないかと思います。この研究会では、教育活動を適正に評価し得る尺度のあり方を調査研究し、優れた教育活動に対して報いるなどの手法で、教育活動評価を定着させるという、当時の鮎川学長から出された課題を念頭に議論しました。そのときに、我々はプラス面を評価する、すなわち優れた教育活動を行っている教員を顕彰し、人事面で優遇するということを提言しました。「良いものを伸ばす」ということの裏返しは、良くないものを排除するということですが、それを一生懸命やっても無駄な努力、非常にコストパフォーマンスが悪いものです。例えば、いまの初等中等教育の教員評価では、不適格な教員を検出して排除する方向になっていると思うのですが、そういうやり方は教育現場の雰囲気を悪くしてしまうという意味で副作用が強いと言えます。研究会の提言は、スタートの時点でプラス面を評価していこうという理解です。これは賢明だったのではないかと思います。
それから、言うまでもありませんが、「足球即时比分_365体育直播¥球探网の理念と目標及び大学憲章」の目標の「研究」部分で、優れた先端的研究グループを研究センター等に組織化するということで、足球即时比分_365体育直播¥球探网が非常に得意な分野、あるいは有望な優れた研究をしている人たちが研究しやすいような環境をつくるということが挙げられており、これも「良いものを伸ばす」というスタンスになっています。
学生支援に関する理念でも同じことが言えます。言うまでもなく、大学にはきわめて多様な学生が存在します。教育企画室では三層論という概念を用いて、学生を便宜的に第一層、第二層、第三層に分けて考えています。従来、学生支援といったときには、サポートを必要とするような学生、大学生活に適応できない学生、すなわち第三層をサポートするというのが主だったわけですが、足球即时比分_365体育直播¥球探网では、第一層すなわちリーダーとなるような学生たちの成長を促す取組みも重要だと考えてきました。「学生の行動変容に最も影響を与えるのは、他ならぬ学生である。」という理念から、第一層の学生が主導で実施するピア?エデュケーションやピア?サポート、すなわち仲間同士のサポートが学生全体の底上げを図るのに有効だと認識しています。
こういうことが「良いものを伸ばす」という事例ですが。これまであまり明示的ではありませんでしたが、足球即时比分_365体育直播¥球探网はこのような方針でやってきたという思いがあります。
次は2番目の『対症療法ではなく本格対応を』ですが、これはいま私が一番気になっているところです。組織としての対症療法的対応は、油断するとすぐに管理主義?罰則主義に陥りがちです。非常に遺憾なことですが、年末に1人の教員を停職処分にしましたが、そういうとき再発防止策を講ずるのは当然重要なことです。しかし、アカハラ、セクハラといった人権問題をなくすためには、単発的な再発防止策だけでは不十分です。本格的な解決のためには、「研究室マネジメント」等に関する組織的な能力開発が重要です。アカハラ、セクハラなどが起こる一番の現場は研究室です。教員と学生の間で起こるケースが一番多いわけですが、そのときに「~をしてはいけない」、「~をするとアカハラと受けとられるかもしれませんよ」と啓発するだけでは不十分で、研究室をどうマネジメントしたらいいのかを学ばなければなりません。教員自身が学び、それから、研究室のメンバーである大学院生や学部学生も学ばなければいけない。そういった仕組みをつくらなければならないということで、実際に足球即时比分_365体育直播¥球探网では、数年前に私が座長を務めた研究室マネジメントに関するワーキンググループを立ち上げて事例報告をしています。30人弱の教員に協力してもらって、研究室の運営に関わる何十項目についてヒアリングして、報告書にまとめています。そういったものの内容をもう少しブラッシュアップして、ノーハウを皆が共有しなければいけないと思います。
また、学生のレポートに関する不正行為をなくすためにどうすればいいのかということも最近の課題になっています。定期試験の筆記試験でカンニングをすれば、停学という厳しい処分を受けます。ところが、レポートを提出してそれを評価して成績に反映させるということは普通に行われているのですが、そのときに丸写しする、あるいはインターネットから完全にコピペ(コピー&ペースト)するというような学生があとを絶たないという問題があります。これを何とかしなければいけない。これに対してカンニングと同じように懲戒処分規定を整備しなければいけないと考えるのは自然の成り行きですが、これだけでは単なる取り締まりの強化になります。学生が委縮したり、あるいはグループで学ぶことが阻害されたりという負の影響が強くなります。懲戒処分規定を精緻化すればするほど、実は泥沼に入っていくという危険性があります。元来レポートの不正行為については白とも黒ともつかないグレイ?ゾーンが大きいので、まじめな普通の学生も、不正なのか、不正でないのかをどのように判断したらいいか分からない。先人のものを一部でも借りてきたらそれは駄目なのか、そうではないのか。そもそも、学ぶとは一体何だろう。学ぶとは人の真似から始まるのではないかという本質的な疑問にぶち当たります。
これに対して、学習とはそもそもどういう目的で、どういう方法でやるのか、レポートをどのように作成するのか、ということに対する学生の理解をまず高めるというのが「本格的な対応」です。これは今日是非言っておきたかったことです。こういった点について我々は常に注意しなければならないのではないのかと思います。
さて、ここからは『「学習する組織」をつくる』という話をしたいと思います。
以前、教育企画室の佐藤浩章准教授と話をしていた時に、「柳澤学長はシステム思考じゃないですか?」と言われたのですが、その時は「そうかな?」と思っただけですが、「システム思考」とは実際どういう意味なのだろうと学んでみたくなり、彼に本を紹介してもらいました。それは、ピーター?M?センゲという人が1990年に出して、2006年に改訂版が出された「学習する組織~システム思考で未来を創造する」という本です。世界では100万部くらい売れたベストセラーだそうです。
私が理解した範囲で、本書の主旨を一言で言うと、「変動する環境下では、あらゆるレベルの構成員が個人であるいはチームで学び続ける組織でないと、恒久的に高い組織パフォーマンスを発揮することができない」ということです。そのときに重要となる5つのキーワードがあるのですが、それを本書では「5つの学習領域」と言っています。ここに示してある「システム思考」「自己マスタリー」「共有ビジョン」「メンタルモデル」「チーム学習」というあまり聞き慣れない言葉がその学習領域ですが、これらを通じて学習する組織を作り上げていくということになります。この「5つの学習領域」について説明します。
「システム思考」とは、人間の営みをはじめ、あらゆる事物?事象を相互に関連しあったシステムとして捉える見方です。すなわち、各要素は原因でもあり結果でもあるということ。私の専門は生態学ですので、こういう考え方はわりと受け入れやすい。あらゆる事物は色々な要素が絡み合って構成され、機械的ではない生きた組織であるともいえます。「システム思考」というのは、複雑なシステムの根底にある構造と変化のパターンを捉えることによって、構造のどこに働きかければ決定的であって、しかも持続的な変化につなげることができるのかを把握しようとする考え方です。どこを変えたらシステム全体が一番良くなるか、長期的に良くなるかを考えることが重要です。システムを目先で変えると、実は長期的に見ると逆に悪くなるかもしれない。善意の行為であっても、あるいは善意の行為であればなおさら、そういうことはあり得ますので、「システム思考」というのは重要な観点であると思います。
次に、「自己マスタリー」とは、「学習する組織が成立するための自己レベルでの必要条件」であって、「個人が人生を創造的な仕事として受け止め、絶え間なく自己の能力を押し広げようとする継続的な成長に対する取り組みである」と書いてあります。「学習する組織」といっても、組織を構成するのは当然個人ですから、そのときに個人に意欲がなければまったく問題にならないということです。そういう意味で個人が成長する意欲をもつことがまず前提条件であると言っているわけです。
それから、次の「メンタルモデル」とは、私たちの心の中に固定された暗黙のイメージやストーリー(仮説)のことです。組織が変動する環境に適応し、成長していくためには、組織のメンバーが共有しているメンタルモデル(常識や思い込み)を変えていく必要があります。個々のメンタルモデルを浮かび上がらせ、検証し、改善するためのスキルが「内省」と「探求(他者とのやりとりの中で自分の見解をオープンに話し合い、それぞれのメンタルモデルを明らかにする)」です。「内省」は個人、「探求」はチームで行いますが、必ず人はそれぞれのメンタルモデルというものを持っています。それをほぐしていく時に「内省」と「探求」が大事です。
次は「共有ビジョン」ですが、これは組織のメンバーが共通してもつ「私たちは何を創造したいのか」「自分たちはどうありたいのか」に関するビジョンです。上から押し付けて、皆がそれに従うというものではなく、メンバーがその構築に参加し、個人ビジョンと結びつくことが望ましい。すなわち、個人のビジョンと組織のビジョンのベクトルが合っていることが望ましいわけです。そこに大きな齟齬があると軋轢が生まれます。ビジョン構築にあたっては、対話を通じて個人で、チームで、組織で、「意味を共有化」することが中心課題になります。ビジョンがどういう意味を持っているのかを常に共有化していく必要があります。これが「共有ビジョン」です。
「チーム学習」とは、チームのメンバーが求める共通の成果を生み出すために、協働でチームの能力を伸ばしていくプロセスのことです。複雑な環境下では、チームとしての達成能力が個人のそれを上回ることが多く、個人ではなくチームが意思決定や仕事達成の基礎単位になります。ですから、個人の能力に依存するのではなく、個人の集まりであるチームがいろいろ意見を出し合って、最終的に何らかの合意を形成していくわけですが、そのほうが優れている場合が多い。一人ひとりの能力は限界があるけれども、多様なアイデアを持った人間が話し合うことによって、より高い見解まで達することができるという信念は非常に大事だと思います。
「チーム学習」は、対話を中心とした共同思考という側面を持っています。そのための中核スキルが、「ダイアログ」と「ディスカッション」です。我々は、ディスカッションという言葉は十分知っていますが、ダイアログという言葉は、単語は知っていてもどういう意味で使われているかはあまり知らないケースが多いかと思います。ダイアログとは、複雑で難しい問題を様々な観点から集団で探求することです。個々人は自分の前提を保留し、その前提についても自分の考えに固執せず自由に話し合います。その結果、参加者の経験と思考の一番深い部分までを表面化させ、一人だけでは到達できない見解にまで達することができる。ディスカッションは、さまざまな意見が提示され、弁護され、最終的に一つの結論や行動方針にまとめられる、すなわち決定をしていくというものです。それに対して、ダイアログは合意?決定するものではないということ、ブレーンストーミングのようなものです。ダイアログが成立する前提となるのは、集団の人々が互いをより深い洞察と明確性を共同で探求する仲間だと考えるということです。チームの中には立場が上の人、下の人という違いがあったとしても、みんな仲間だ、自由に自分の考えを出せるという認識が前提です。
個人的なことになりますが、むかし私は京都大学の理学部動物学科に在籍していましたが、京都大学は自由な学風で、先生のことを「先生」と呼ぶと叱られて、「さん」付けで呼んでいました。この間ノーベル賞を受賞した益川敏英先生の話を伺ったときに、名古屋大学も非常に自由な学風で「さん」付けだったということを知りました。そういう場所では研究についても自由に意見を言う環境がありました。私も先輩の院生から呼ばれて「俺はこういうことを考えているんだけれどもお前はどう思う?」と意見を求められて、一生懸命自分の考えを伝えました。そのときに先輩が「それはなかなか面白そうだね」と褒めてくれると、より深く考えようかと思うのですが、そういう雰囲気があるかないかというのは、組織としてとても大きいと思います。
「学習する組織」のまとめになりますが、強調しておきたいのは「労働力としての人間観から主体と成長意思を持った人間観へ」です。また、先ほどから言っているように「学習の基礎単位として個人からチームへ」ということです。それからもう一つは対話、ダイアログやディスカッションを重要視することです。この本には、「これから本当の意味で抜きん出る組織は、あらゆるレベルのスタッフの意欲と学習能力を活かす術を見出した組織である」と書かれています。「学習する組織」は企業をイメージして書かれた本ですが、大学においてもこういったことを取り入れることが非常に重要ではないかと思います。
足球即时比分_365体育直播¥球探网は「学習する組織」から何を学べるか、本当はかなり幅広く活用できるのではないかと思います。学生、教職員の学習?能力開発の理論的枠組や具体的ツールとして活用できるだろうということで、いくつか例を挙げました。「組織マネジメントに関する教職員の意識を変革する」、「職員の能力開発、特にOJT(On the Job Training:現場での能力開発)に活用する」、それから「リーダーシップの考え方を変える」、これはあとで少し詳しく述べたいと思います。また、「ダイアログ概念の導入により、対話?議論を効果的に行う」。学生に関しては「チーム学習の手法を学生のアクティブ?ラーニングやPBL(Project Based Learning:プロジェクト型学習)に応用する」、「学生の社会的能力育成のツールとして活用する」といったことが挙げられます。
ここで「リーダーシップの考え方を変える」ということについて少し紹介しておきたいと思います。「学習する組織」においては、「リーダーは階層に関わらずたくさん存在する」とされています。いろいろな階層においてそれぞれリーダーが存在しなければならないということです。これに対立するのは「英雄的リーダー」です。「学習する組織」におけるリーダーシップは一人の英雄的なリーダーがトップダウンで発揮するようなリーダーシップではありません。そこでは3種類のリーダーが述べられています。イメージしやすいリーダーとしては、現場リーダー(現場レベルでの業務のやり方を変える権限を持っているリーダー)と役員リーダーがありますが、ここで注目したいのは3番目の「ネットワークリーダー」です。これはネットワークを通じて、新しいアイデアや手法を組織内外に浸透させるリーダーです。従来はあまりリーダーという言い方をしなかったと思いますが、このような存在は重要です。しかもこのネットワークというのは、フォーマルなものだけではなくインフォーマルであることが多いと思います。例えば、職員の方が何か尋ねたいときには他の部局、あるいは他大学の誰かに電話するネットワークをもっていると思います。そういうネットワークのコアになる人というのは間違いなく「ネットワークリーダー」と言えます。そういうものが実は大きな機能を果たしているのです。
このリーダーシップの考え方を「教育改革を推進する4つの主体(アクター)」にあてはめて考えてみましょう。「4つの主体(アクター)」の図は、足球即时比分_365体育直播¥球探网モデルとも言われていて、教育企画室あるいは私が外部で話をするときにはよく使っています。教育改革を全学で一体的に実施しようとしたら、まず学部(ファカルティ)側では教員(アクター1)がいて、その中でアクター2である学部教育の責任者が非常に重要な役割を果たします。また、全学側では教育の専門家であるFD担当者(アクター4)が重要、もちろん管理職(アクター3)も重要です。このような4者の存在を明確にすると同時に、矢印で示してあるような4者間の関係性を確立することが、大学の教育改革において重要であると主張しています。
足球即时比分_365体育直播¥球探网ではアクター2は各学部の教育コーディネーターであり、アクター4は教育企画室のスタッフに該当し、彼らをサポートする色々な制度もできあがっています。先ほどの「3種類のリーダー」に当てはめていきますと、アクター2は「現場リーダー」、アクター3は「役員リーダー」、アクター4は「ネットワークリーダー」であると理解すればいいのでしょう。そうすると、足球即时比分_365体育直播¥球探网においては「ネットワークリーダー」である教育企画室スタッフが重要な役割を果たすことになります。実際に、教育企画室は文部科学省から教育関係教職員能力開発拠点に認定されていて、多彩な業務を行っています。教育企画室の学内における結びつきを見てみると個々の教員、職員、学生とも関係をもっているし、学部とも関係をもっている、自己点検評価室や経営情報分析室とも関係をもっている。もちろん、直属の上司である機構長や学長とも関係をもっている。この関係図からわかるように、教育企画室は教学におけるネットワークリーダーになっています。いま、このような全学の例を出しましたが、学部の中あるいは学科の中においてもこういった「現場リーダー」「役員リーダー」「ネットワークリーダー」という存在があるはずです。それを意識することが組織を良くする上で大事だと思い、ここで紹介しました。
では、いま紹介した「学習する組織」という考え方は、足球即时比分_365体育直播¥球探网憲章と照らし合わせたときにどうなっているでしょう。大学運営として全体の第10項に「足球即时比分_365体育直播¥球探网は、相互に協調し啓発しあう人間関係を基調とした知の共同体を構築し、構成員の自発的?主体的活動を尊重する」、また、第11項に「足球即时比分_365体育直播¥球探网は、大学の特性と現状の批判的分析の上に立って明確な目標?計画を定め、機動的で戦略的な大学経営を行う」となっています。この2つの項目は引用される機会はあまり多くありませんが、特に第10項の「相互に協調しあう人間関係を基調とした知の共同体を構築する」、また「構成員の自発的?主体的活動を尊重する」は「学習する組織」の考え方と似ています。いままで、この項目はあまり意識されてこなかったかもしれませんが、今後これを意識して積極的に活用しましょうというのが一つの提案です。
? ここからは3番目の「今後の主な施策?課題」について話をしたいと思います。
まず、教育に関することです。先ほど言いましたように、現在、本学の文系学部は法文学部と教育学部という2学部ですが、それをグローバル化の時代、あるいは教員養成の特化が必要な時代にふさわしい3学部制にするということです。いま、文部科学省とも下相談しているところですが、ハードルは高いと思っています。しかし、もしかしたら順風が吹くかもしれません。教育に関して、全学DPを策定することも挙げています。これに伴って特に共通教育のカリキュラムを改訂することになりますが、その準備は着々と進んでいます。
研究については、新規の分野で拠点形成を目指すとともに、既に確立している拠点については、連携やネットワーク形成を推進するということです。もう1つは、先端研究?学術推進機構を今年度再編しましたが、その時に強調したのは「研究基盤の強化」です。学術企画室を中心に教員の研究能力開発や共同研究の活性化に取り組むということで、学術企画室が研究面でのネットワークリーダーにならなくてはなりません。いまはまだ準備段階で十分に機能しているとは言えませんが、これからぜひ頑張ってもらいたいと思います。
社会連携については、社会連携推進機構の組織整備です。この機構は個々にはいろいろなネットワークをもっていますが、それがまだ十分に組織化されていないというのが弱点です。この機構においても社会連携企画室が重要で、司令塔としての役割、組織的にネットワークをつくることに取り組んでもらいたいと思います。それから地域とのネットワークですが、防災情報研究センターや南予水産研究センターを中心に地域とのネットワークが構築されていますが、他の分野においてもこういったコーディネーター役、ハブ的機能を強化する気概が必要だと思います。
次に、国際連携ですが、国際連携の機能はここ3年ほどでかなりアップしたと思います。さらに機能を向上させるために、基盤整備を現在行っているところです。英語、中国語、韓国語によるホームページが今年度中にできる予定ですが、それに加えて、留学生受入れシステムの国際標準化を図っていく必要があります。また、国際連携の戦略として「世界の人々と協働できる人材の育成」を挙げていますが、そのために学生の海外体験を強化するための海外教育プログラムをこれまで以上に整備していくことが重要だと考えています。
組織?管理運営については、大学間連携の推進です。教育、研究、管理運営等の分野で大学間連携を推進し、大学の機能を高める必要があります。それから、第3期中期目標期間(平成28年度?)に入る前に大学憲章の改訂が必要であろうと考え、ここにそれを掲げています。また、若手研究者を重点的に支援するためのテニュア?トラック制度導入ですが、これについては、もう少し全国の動向を見ながら、足球即时比分_365体育直播¥球探网として、いつ、どういう規模で導入するかを考えていきたいと思います。
それから「能力開発と人材育成マネジメント」です。「教職員能力開発拠点」の機能を充実させ、教職協働を推進するということで、足球即时比分_365体育直播¥球探网ではSPODというかたちで四国の代表校になっていますけれども、そういう機能と同時に足球即时比分_365体育直播¥球探网独自でもう少し高いレベルでの教職協働プログラムの実践が必要だと思います。すなわち、SPODと足球即时比分_365体育直播¥球探网独自のものを切り離して、足球即时比分_365体育直播¥球探网独自のものは一歩二歩先に行くような、質の高いものをつくり上げていく必要があるのではないかと考えています。
キャンパス環境整備に関しては、「城北キャンパスにおける多目的広場等の整備」を挙げました。現在、城北キャンパスの広い面積を駐車スペースとして使っていますが、立体駐車場を作ることで駐車スペースを集約し、学生?教職員?市民が集える多目的広場を整備する、これをぜひ実現させたい。城北キャンパスは文京遺跡の上にあり、この場所は埋蔵文化財や考古学の研究をしている人にとって非常に重要な場所です。十数年前に当時の鮎川学長がグリーンゾーンを指定して地域に公約したにも関わらずまだ実現できていないということで、社会の側からかなり批判があります。これを解消したいということです。ここではグリーンゾーンとは言っていませんが、多目的広場というかたちで多くの機能をもった空間を創出していきたいと思っております。
重信キャンパスにおいては福利厚生施設の充実が課題です。古くなった福利会館や体育館を改修して学生のキャンパス?ライフを向上させるということが必要です。
附属病院は非常に順調に運営されておりますが、外来棟の改修?増築及び病院機能の強化を課題として挙げています。もうすぐ工事に入りますが、病院の正面の外来棟を増改築してより専門性の高い医療を目指します。また、医療スタッフの労働環境改善として、研修医宿舎の新築、これは学生宿舎とあわせて今年度末に完成します。それから保育所の増築です。現在50人定員のところを、増築して80人定員にする予定です。これは看護師などの定着率を高める切り札になっていますが、こういった環境整備を行って医療スタッフが働きやすい環境を創出することにしています。
以上が、この1、2年に実現しようとしている主な施策です。
大学憲章にある、「相互に協調し啓発しあう人間関係を基調とした高い組織力を備えた大学」を皆さんと一緒につくっていきたいと思います。
ご清聴ありがとうございました。