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HISTORY ?理工学研究科数理物質科学専攻 川嵜 智佑 教授?

 平成25年3月末退職の理工学研究科数理物質科学専攻 川嵜 智佑 教授から大学での思い出を寄せていただきました。

日暮れて道遠し

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強烈な日差しを風穴で避ける。リュッツオホルム岩体スカルブスネスにて。

 高知大学教育学部から足球即时比分_365体育直播¥球探网理学部へ平成6年4月1日に配置換えになり、その後の19年間を松山の地で過ごしました。退職にあたり、お世話になった皆様方に、まず最初に御礼を申し上げますとともに、皆様の今後ますますのご発展を祈念いたします。
 大学院時代から、39年の長きにわたって、実験岩石学に足を踏み入れてきました。自然界に起きる地質現象を、高温高圧実験から解析していこうというのが実験岩石学の狙いです。大学院時代と高知大学時代の前半は、マントルを構成する鉱物の熱力学的性質や鉱物相互間の元素分配を、高温高圧再現実験から明らかにするという研究を進めてきました。同時に、マントル鉱物の熱力学的性質や元素分配に関した実験結果を、マントル由来の岩石に適用して、マントル内部の温度分布を推定する研究も進めてきました。
 鉱物の熱力学的性質を研究するのに、単純な系からより複雑な系へ、天然の岩石へと近づけて発展させていくのが、順当な研究の進め方であると考えられています。ところが、天然の岩石は、主要元素組成からみても、O、Si、Al、Fe、Mg、Ca、Na、Kの8成分系です。これらの主要元素以外に、岩石は重要な副成分元素として、Ti、Cr、P、Zr、Nb、Vなどを含んでいます。もっと厳密に言えば、自明のことですが、岩石には、周期律表に載っている全ての元素が含まれています。このうち、OからCaまでの主要6元素について、マントル鉱物の相平衡実験を発展させてきました。しかしながら、天然の岩石の生成条件や岩石が経験した変遷過程を解析するのに、単純な系での実験結果を直接的に適用することには少し無理があります。自然現象の解明に直接的には役に立たないのではないか?というもどかしさを感じていました。逐次近似的に、天然の系に近づけるという手法は迂遠であり、いつまでたっても自然そのものの理解に役立たないのではないか?方法論的に問題があるのではないか?と考えるようになりました。
 それでは、どうするか?岩石そのものの安定性を直接的に検証すればどうか?それにはどのような岩石を研究対象にすればいいか?こういうことを考えている時に、平成3年の第33次南極地域観測隊に参加しないかと友人から誘いがありました。研究を今後どう進めるかを模索していた時期でもあり、この話に飛びつきました。南極の岩石を使って、南極大陸地殻下部での変成作用を解明しようという夢に取り付かれた訳です。南極は、ゴンドワナ超大陸の生成?分裂の消長を研究するのに最適の地です。昭和基地周辺の沿岸地域は氷河で削剥され、地殻深部の35億年もの歴史を持つ新鮮な岩石が、夏期には一面に露出しています。岩石学者にとって垂涎の地です。という訳で、心勇んで参加させていただきました。
 このときのオペレーションと11年後の平成14年に行った、第44次南極地域観測行動の2度の南極調査で、1トン近くの超高温変成岩類や片麻岩類を採集しました。しかしながら、最初の南極行で採取した変成岩類についての相平衡実験を終え、論文になるまで、観測隊に参加してから、実に15年もかかってしまいました。第44次南極地域観測の地質調査と岩石記載の一部をまとめた論文が、昨年末に定年間際となってやっと受理されました。こちらは11年もかかってしまいました。この論文で、重要な岩石学上の課題をいくつか指摘しましたが、ついに時間切れとなってしまいました。まさに日暮れて道遠しです。
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