平成25年4月2日(火)、上級研究員センターの難波大輔上級研究員、スイス連邦工科大学ローザンヌ校のYann Barrandon教授、プロテオサイエンスセンターの東山繁樹教授、医学部付属病院先端医療創生センターの松下夏樹研究員らの論文が、EMBO(欧州分子生物学機構)の雑誌「EMBO Molecular Medicine」に掲載されました。
この学術雑誌は、2009年に創刊され、臨床医学と分子?細胞生物学の境界にあって独自性の高い論文が選出されています。今回選ばれた論文は、ヒトの皮膚幹細胞の再生医療応用について公表したものです。
皮膚の最外層にある表皮の恒常性を担う幹細胞(表皮幹細胞)は、体外で培養可能であり、患者自身の表皮幹細胞から表皮シートを作製し移植することで、重度熱傷などの治療に用いられています。しかしながら、表皮幹細胞は培養中に徐々に枯渇し、作製した表皮シートの生着率が低下するなどの臨床上の重大な問題となっています。
そこで、難波上級研究員らは、細胞生物学的手法を駆使することで、培養ヒト表皮幹細胞を維持するための分子メカニズムを解明しました。まず、ヒトの表皮幹細胞と表皮の非幹細胞では、上皮成長因子(Epidermal growth factor; EGF)に対する反応性が異なること、また、その原因が細胞骨格の一つであるアクチン繊維の配向性の違いに基づくことを発見しました。さらに、Rac1というタンパク質の活性が、幹細胞特異的なアクチン繊維の配向と幹細胞の維持に必須であることを明らかにしました。
本研究による培養ヒト表皮幹細胞維持の分子機構の解明は、ヒト表皮幹細胞を用いた重度熱傷などに対する再生医療のさらなる発展に寄与するものです。また、難治性皮膚潰瘍の治療や、老化に伴う幹細胞の枯渇を予防する研究への発展が期待されます。
論文名:Actin filament dynamics impacts keratinocyte stem cell maintenance (Vol 5, page 640-653)
著 者:Daisuke Nanba, Fujio Toki, Natsuki Matsushita, Sachi Matsushita, Shigeki Higashiyama, Yann Barrandon
<研究支援部>