平成28年9月13日(火)~15日(木)、神戸市で3日間にわたり開催された、「第10回分子科学討論会2016神戸」で、大学院理工学研究科博士前期課程2年の沖井優一さんが、優秀ポスター賞を受賞しました。
分子科学討論会は、化学と物理を跨る広汎な領域の諸課題を議論する分子科学会が主催するもので、約40年前から継続している分子構造総合討論会と分子科学研究会を発展的解消?統合させた学術的会合です。
記念すべき第10回目となった今回は、物理化学系の学者と院生が、複数の会場(気相、液相、固相、界面?表面、クラスター?微粒子?ナノ構造体、生体関連分子、理論?計算)に一堂に会し、約400件の口頭発表が行なわれました。ポスター発表は、昼休み後の1.5時間行なわれ、計450件の発表がありました。毎回、ポスター会場には人が溢れる活況振りで、実質2時間から2.5時間の長い真剣勝負になりました。
沖井さんは、「β″-型ET塩における一軸性圧縮実験」という研究発表を行いました。β″-型ET塩という物質は、ETという有機分子と、無機や有機の陰イオンから構成されるイオン結晶で、ET分子が二次元的に格子状に並んでいます。ET分子が並んだ空間を電子が移動できるので、電気伝導性があります。沖井さんは、格子状に並んだ空間の特定方向のみ縮める「一軸性圧縮」を、超伝導になる物質とならない物質に適用することで、超伝導の発現機構を探索しています。「一軸性圧縮」?「極低温」?「磁場」を組み合わせた環境の下、電気抵抗測定するという、極めて高度な技術を要する実験を積み重ねてきました。その結果、一軸性圧縮の方向に関わらず、絶縁体的挙動を経由してから超伝導が発生するという、「等方的な圧力(=静水圧)」による実験では見出せなかった事実を発見しました。絶縁体的挙動の原理は、「陽イオンのET分子同士の距離が一軸性圧縮により短くなり、静電的反発のため電子が移動して中性のET分子が陽イオンのET分子の間に生成した」ことにより理解できます。この現象は電荷整列と呼ばれ、β″-型ET塩の超伝導の支配要因として注目されています。
分子科学会の優秀ポスター賞の選考は、研究集団内の勢力図に左右されがちな投票形式ではなく、厳格な審査形式を採用しています。予稿集を熟読した複数の審査員が発表当日に厳しい質疑を行なう「討論」形式で、全審査員を納得させることができなければ、高得点は得られません。事実、過去の受賞者は有力大学の院生が多数占めており、学振DCや若手研究者への登竜門としても機能しています。特に、固体分野に関しては、物理学会で同様の賞がこれまで無かった経緯から、この賞が実質的唯一のチャンスであり、2人のみ選ばれるという狭き門です。沖井さんの受賞は四国内初で、このような価値ある賞を本学学生が受賞できたことは、喜ばしい限りです。
<理学部>