平成25年8月1日(木)?4日(日)、プロテオサイエンスセンターで、サイエンス?リーダーズ?キャンプ「無細胞反応系を基盤とした次世代のための統合型生命科学教育」を実施しました。
独立行政法人科学技術振興機構が主催する「サイエンス?リーダーズ?キャンプ」とは、中学校、高等学校等の理数教育を担当する教員が、合宿形式で最先端の科学技術を体感し、才能ある生徒を伸ばすための効果的な指導方法を修得することにより、理数教育における指導力の向上を図るものです。また、参加者が将来、都道府県等の理数教育において、中核的な役割を担う教員となるための素養の育成を図るとともに、地域の枠を超えた教員間のネットワーク形成を支援することも目的としています。今年度は全国の6大学で開催されています。
本学におけるキャンプの特徴は、遺伝子操作やDNAの分析実験のみならず、本学で開発された無細胞タンパク質合成実験を活用した実習によって、新しい高等学校学習指導要領に沿って「生物基礎」、「生物」に大幅に取り入れられた「遺伝情報の流れ」や「DNAとタンパク質の働き」を理解させるために必要となる「生命現象を分子レベルで理解する素養」を体得すること、および研究センターにおける生命科学の先端研究の見学や、先端技術に関する実習によって、高校での学習レベルを超えた高度な課題研究などを実施できるようになること、にあります。また、キャンプ終了後には、新しい指導要領に沿った生命科学の学習により効果的な実験テーマや教材などを参加した高校教員自身が考案することになっています。
各県の教育委員会などから推薦を受けた16人の化学あるいは生物担当の高校教員(愛媛県、香川県、各3人、徳島県、高知県、各2人、静岡県、愛知県、兵庫県、岡山県、広島県、大分県、各1人)は、まず、プロテオリサーチ領域の林秀則教授から、遺伝子とタンパク質に関する講義を受けた後、理工学研究科の大学院生および理学部学生などから指導を受けながら実験に取り組みました。1日目はDNA断片を接続して組換えDNAを作製し、これを大腸菌に導入しました。2日目は本キャンプの目玉となるコムギ胚芽による無細胞タンパク質合成実験を、高校向け教材として市販されているキットを主に用いて実施しました。3日目はDNAの塩基配列をオートシーケンサーで解析したり、遺伝子組換えによって作られたタンパク質の分子量を質量分析装置で決定したり、さらに本学のe-ラーニングのサイトを利用して分子模型のグラフィックスにチャレンジしたりと、通常、高校では実施できないような実験にも取り組みました。多くの参加者にとってほとんど初めての実験もあり、器具の使い方や試薬の成分、各操作の意義などを学生補助員に熱心に質問していました。
2日目の午後は重信キャンパスに移動し、プロテオイノベーション領域の今井祐記教授からゲノム情報やタンパク質研究の医療への応用に関する講義や各研究部門の研究内容の紹介を受けたり、質量分析装置、画像解析装置などを見学したりしました。3日目の午後には、坪井敬文センター長からマラリアワクチンの開発状況や、プロテオリサーチ領域の各研究において研究内容や実験装置などの説明を受けました。両日の見学とも活発な質問と説明が交わされ、「生命科学の現状と医学への応用について聞くことができ、高校生に教えるときにより具体的なイメージをもって教えることができる」といった感想が聞かれました。また4日目にはテレビ会議システムによって米国サンタクルーズから遠藤弥重太特別栄誉教授による「生命って?私って??神秘的な生命の原理を探ってみよう」と題した講義を受け、海外との双方向授業に感動した様子でした。
食後の時間などにはポスターセッションが行われ、新しい学習指導要領に関連した実験授業や探究活動、あるいは生命活動を分子レベルで理解させるための教材などについて活発な討議がおこなわれました。ポスターセッションでの討議および3日目の高崎健康福祉大学の片山豪教授による「無細胞タンパク質合成実験の新学習指導要領生物への導入」と題した授業などを参考として、今後各参加者はより洗練された学習内容や実験教材を考案することになっています。
今回のキャンプに参加した熱心な教員によって、無細胞タンパク質合成法を活用した統合型生命科学教育が高校でも実施されること、また本学における生命科学の研究が多くの高校生に紹介されることが期待されます。一般的に、大学における高校教員に対する各種事業が県単位であるのに対し、今回のキャンプの参加者は複数の県にまたがっているため、教員間の連携によって同様の内容に触れる高校生の数はさらに多くなるものと期待されます。
<プロテオサイエンスセンター>