平成26年8月3日(日)、教育学部2号館2階理科学生共同実験室2で、日本学術振興会「ひらめき☆ときめきサイエンス」事業『植物をそだてて、水よう液のせいしつをしらべよう?色でわかる科学?』を開催し、松山市を中心に大洲市、今治市、西条市、伊予市から33人の小学校5?6年生と29人の保護者及び家族が参加しました。
「ひらめき☆ときめきサイエンス」事業とは、日本学術振興会の科学研究費助成事業(通称:科研費)の支援を受けて大学で行っている研究の成果について、小学校5?6年生の児童が、直に見る、聞く、ふれることで、科学のおもしろさを感じてもらうプログラムです。
教育学部理科教育講座(化学)の大橋淳史准教授の研究室では、平成25?27年度に科研費の支援を受けて「初等?中等教育課程を通した化学、生物領域が連携した理科教育教材の開発研究」を行っており、この研究で新たな科学教育教材「紫カイワレ大根栽培キット」を開発しました。教材は、『紫カイワレ大根』を『自分で栽培』し、『栽培した紫カイワレ大根を使って』水溶液の実験を行うものです。この研究結果は、理科の教科書へ掲載される予定で、教材研究の中でも教科書へ掲載される機会は極めて希少です。
理科離れが叫ばれる中、この事業では、県内各地から集まる参加者に、『色』というわかりやすい基準で物質の性質を調べる本教材を用いて、楽しみながら生物と化学の関係を学び、『理科のおもしろさ』に触れてもらうことを目的に実施しました。
児童は、事前に配付された「紫カイワレ大根栽培キット」を用いて、約1週間自宅で栽培を行い、事業当日には、栽培した紫カイワレ大根と成長の様子を記録した観察冊子を持参しました。
まず実験の前に、児童は、ソライロアサガオとアジサイの『色』はどうして変わるのだろうという疑問について考えた後、観察冊子を確認しながら、植物の発芽と成長の内容を振り返りました。
また、紫カイワレ大根の根の状態を観察し、インターバルタイマーで撮影した根の成長から、中学校1年生で学ぶ「根の観察」について、実際に根が生長する様子を確認しました。そして、双葉で発芽し、根が主根?側根であり、葉脈が網目状であることを観察し、紫カイワレ大根を双子葉植物であると分類しました。
次に、児童は、紫カイワレ大根から紫色の色素、アントシアニンを抽出する方法を考え、実際に抽出を行いました。そして、抽出したアントシアニン水溶液を用いて、お酢や炭酸水、砂糖水、食塩水、レモン果汁などの液性を、強酸性、弱酸性、中性、弱アルカリ性、強アルカリ性の5つに分類し、アントシアニンは水溶液の液性によって色が変わることを確認しました。
その後、ミネラルウォーターを使った実験を行いました。ミネラルウォーターはほぼ中性の水ですが、ミネラルウォーターにアントシアニンを加えると、色は緑や青になりました。先ほどの実験では、緑は強アルカリ性、青は弱アルカリ性だったため、水溶液の液性ではこの色の変化は説明できません。一方で、食塩水を加えても色は変わりませんでした。そこで、ミネラルウォーターによる色の変化は、『イオン』によるものであること、イオンの種類によって色が変わることを実験で確認しました。
イオンは中学校3年生の現行指導要領に復活した分野ですが、イオンの種類による性質の違いについては、あまり解説されていません。本講座に参加した小学校5?6年生は、このイオンのうち、+1のナトリウムイオン、カリウムイオンと+2のカルシウムイオン、マグネシウムイオンの違いを目で見て分類することに成功しました。
実験のまとめで、児童は、アントシアニン水溶液を用いて行った2つの実験が、最初に紹介したソライロアサガオとアジサイの色の秘密に関わっていることを学びました。つぼみのときに赤紫で、花が開くと青くなるソライロアサガオは、開花によるpHの上昇で花弁が青くなります。一方で、アジサイは土壌中のアルミニウムイオンによって赤紫から青く変化します。
実験で確認した2つの事実によって、植物の色が変わる理由を科学的に解明しました。栽培と実験を通して、植物の不思議、自然の不思議を学び、また生物と化学は連携した分野であることを学びました。
内容が小学校高学年?中学校高学年に渡るものだったため、一部難しい点もあったようですが、実施前には栽培にあまり興味のなかった児童も、栽培していくうちに期待が高まり、実験を通して栽培のおもしろさに気づいたようです。1週間で成長が確認でき、また栽培した植物を使って実験するという手法の有効性が確認されました。
そして、実験と講義終了後に、児童たちに「未来博士号」が授与されました。理科に関心を深めた児童たちの今後が楽しみです。
なお、本内容は、愛媛新聞8月4日付け朝刊で報道されました。
<教育学部>