平成26年7月30日(水)?8月2日(土)、プロテオサイエンスセンターで、サイエンス?リーダーズ?キャンプ「タンパク質研究の先端技術を活用した実践型次世代生命科学教育」を実施しました。
独立行政法人科学技術振興機構が主催する「サイエンス?リーダーズ?キャンプ」は、中学校、高等学校等の理数教育を担当する教員が、合宿形式で最先端の科学技術を体感し、才能ある生徒を伸ばすための効果的な指導方法を修得することにより、理数教育における指導力の向上を図るものです。また、参加者が将来、都道府県等の理数教育において、中核的な役割を担う教員となるための素養の育成を図るとともに、地域の枠を超えた教員間のネットワーク形成を支援することも目的としています。今年度は全国の5大学で開催されています。
本学におけるキャンプの特徴は、生命体の分子素子であるタンパク質研究を機軸とし、「組換えDNAの作製と遺伝子導入」、「本学で開発されたコムギ胚芽を利用した無細胞タンパク質合成実験」、「質量分析によるタンパク質の分析」など、一般の高校では実施が困難な実験を体験し、「遺伝情報の流れ」や「DNAとタンパク質の働き」を理解させるために必要となる「生命現象を分子レベルで理解する素養」を体得すること、および研究センターにおける先端研究の見学や才能教育に関する講義などによって、学習レベルを超えた高度な課題研究なども実施できるようになること、にあります。そのため、キャンプ参加者は、勤務地において生命を理解するための授業を実践する一方で、より高度な課題研究や教材などを考案し、その情報を共有することも求められています。
各県の教育委員会などから推薦を受けた20人の化学あるいは生物担当の高校教員(東京都、長野県、滋賀県、岡山県、広島県、各2人、愛知県、京都府、奈良県、和歌山県、大阪府、兵庫県、山口県、香川県、徳島県、熊本県、各1人)は、まず、プロテオリサーチ領域の林秀則教授から、遺伝子とタンパク質に関する講義を受けた後、理工学研究科の大学院生および理学部学生などから指導を受けながら実験に取り組みました。
1日目に、DNA断片を接続して組換えDNAを作製し、これを大腸菌に導入しました。2日目には、本キャンプの目玉となるコムギ胚芽による無細胞タンパク質合成実験を、高校向け教材として市販されているキットを主に用いて実施しました。また、キャンプ終了後の情報共有を目的として、本学のe-ラーニングのサイトの利用法を学習しました。午後には、坪井敬文センター長から、マラリアワクチンの開発状況や、プロテオリサーチ領域の各研究において研究内容や実験装置などの説明を受けました。
3日目は、遺伝子組換えによって作られたタンパク質を電気泳動によって分析したり、質量分析装置による測定を見学したりしました。また、高崎健康福祉大学の片山豪教授および丸亀城西高校の藤本博文教諭から「無細胞タンパク質合成実験の授業の導入例」、隅田学准教授から「才能教育への展開」など、実践に向けての講義を受けました。
午後からは重信キャンパスで、プロテオイノベーション領域の今村健志教授から、生きた状態での生体微細構造の解析について、プロテオメディシン領域の武森信暁教授から、質量分析の医療への応用に関する講義を受けました。そして、各研究部門において、研究対象や先端設備を見学しました。
多くの参加者にとって、ほとんど初めての実験もあり、器具の使い方や試薬の成分、各操作の意義などを学生補助員に熱心に質問していました。また、見学では、活発な質問と説明が交わされ、「生命科学の現状と医学への応用について聞くことができ、高校生に教えるときにより具体的なイメージをもって教えることができる」といった感想が聞かれました。
さらに、4日目には、テレビ会議システムを用い、米国サンタクルーズから遠藤弥重太特別栄誉教授による「生命って?私って??神秘的な生命の原理を探ってみよう」と題した講義を受けました。参加者は、海外との双方向授業に感動した様子でした。
夕食後の時間にはポスターセッションを行い、新しい学習指導要領に関連した実験授業や探究活動、あるいは生命活動を分子レベルで理解させるための教材などについて活発な討議をしました。最終日には参加者が5班に分かれ、それぞれ指示されていたテーマについてキャンプ中の実験の結果や考察を発表し、活発な討議によって内容の理解を深めました。
このような参加者自らの積極的な取組みや教材に関する質問などから、今後、キャンプに参加した教員が、無細胞タンパク質合成法やタンパク質の分析などの実験を授業に取り入れ、分子生物学や生化学に関連した生命科学教育が高校でも実施されること、また本学における生命科学の研究が県外の多くの高校生に紹介されることが期待されます。
<プロテオサイエンスセンター>