農学部渡辺誠也准教授らのグループは、コラーゲンに特異的に含まれる特殊アミノ酸の1つであるトランス-3-ヒドロキシ-L-プロリンの細菌による代謝経路に関わる遺伝子群(酵素群)の同定に世界で初めて成功しました。本研究成果は、欧州生化学会誌「FEBS Open Bio」掲載に先駆けて、日本時間2014年2月25日にオンライン速報版で公開されました。
今回の成果は、健康と深く関わりがあるコラーゲンの新たな測定方法の開発につながることが期待されます。
Identification and characterization of trans-3-hydroxy-L-proline dehydratase and Δ1-pyrroline-2-carboxylate reductase involved in trans-3-hydroxy-L-proline metabolism of bacteria
Seiya Watanabe, Yoshiaki Tanimoto, Seiji Yamauchi, Yuzuru Tozawa, Shigeki Sawayama, Yasuo Watanabe.
http://dx.doi.org/10.1016/j.fob.2014.02.010
最近の機能性食品?美容ブームで注目されているコラーゲンは、人間の全タンパク質の1/3を占めています。コラーゲンを構成するアミノ酸は、グリシン?L-プロリン?アラニンが全体の2/3を占めるという非常に偏った構成となっており、さらにL-プロリン(以下:L-Pro)は、翻訳後修飾により水酸化されL-ヒドロキシプロリン(以下:L-Hyp)となります。このように、L-Hypはコラーゲン特異的なアミノ酸であることから、生体試料中のコラーゲン含有量を見積もる際の指標として用いられています。L-Hypには、水酸化される位置の違いによってトランス-4-ヒドロキシ-L-プロリン(以下:T4LHyp)とトランス-3-ヒドロキシ-L-プロリン(以下:T3LHyp)の2種類が知られています。存在量としては、T4LHypの方が多く、T3LHypは1000アミノ酸残基あたり1個程度しか含まれません。しかし、4型コラーゲンにはその数十倍含まれています。
L-ProとL-Hypは非常によく似た構造ですが、通常の微生物はT4LHyp及びT3LHypを栄養源として利用することができません。渡辺准教授は、2012年までにシュードモナス属の細菌におけるT4LHyp代謝に関わる4つの遺伝子群の同定に成功していました(J. Biol. Chem., 2007, 282, 6685-6695及びJ. Biol. Chem., 2012, 287, 32674-32688)。今回、このT4LHypを代謝可能な細菌のうち、Azospirillum brasilenseがT3LHypも代謝できることを見出しました。さらに、ゲノム情報や生化学的知見などをもとに、T3LHypが2種類の酵素により最終的にL-Proに変換されることが分かり、それらの酵素をコードする遺伝子同定にも成功しました。本研究は、細菌を含む全生物において、T3LHypが実際に代謝されていることを示した初めての報告です。
本研究では、T4LHypとT3LHypは全く異なる経路で代謝され、しかも独立の遺伝子発現制御をうけていることが分かりました。T3LHypのコラーゲン中の含有量は少ないことから考えても、自然界におけるこの細菌の主なT4LHypやT3LHypの供給源は、コラーゲンの分解物ではないのかもしれません。実は、別の土壌細菌では(コラーゲン中ではなく)L-Proを直接水酸化できる酵素をもつものが知られています。A. brasilenseは、植物根粒に寄生する窒素固定細菌の一種であることからも、L-Hypはこのような遊離状態で供給されている可能性があります。
食品や細胞組織に含まれるコラーゲンの定量には、L-Hypが広く用いられています。また、人体においてコラーゲンは骨?皮膚?軟骨?細胞接着成分などとして機能しており、その代謝挙動は健康と深く結びついています。分解されたコラーゲンから生じたL-Hypは尿や血中に分泌され、その濃度変化は多くの疾患との関連性が指摘されています(このような化合物をバイオマーカーと呼びます)。
このようにL-Hyp定量の重要性は高いわけですが、その分析には高価な機器が必要な高速液体クロマトグラフィー(HPLC)が使われています。これに替わる分析法として酵素を用いた方法がありますが、渡辺准教授らはすでにT4LHypについてその方法を確立しています。今回の研究で発見した酵素(群)を活用すれば、T3LHypについてもそれが可能になると考えられます。既に特許を出願しており、今後さらに研究を進めていく予定です。
渡辺誠也、谷本佳彰
3-ヒドロキシプロリンの分析方法、コラーゲンの測定方法、およびそれに用いる新規Δ1-ピロリン-2-カルボン酸還元酵素
特願2013-186647
出願日2013/9/9
本研究の一部は、JST A-STEP及びホクト生物科学振興財団の助成を受けて行われました。<農学部>