「有害物質によるワニの内分泌撹乱」?アメリカ合衆国フロリダ州の水圏生態系汚染?
平成21年6月4日(木)、足球即时比分_365体育直播¥球探网総合研究棟1理学部会議室において、第13回グローバルCOE特別セミナーを開催しました。フロリダ大学のGuillette教授をお招きし、「有害物質によるワニの内分泌撹乱?アメリカ合衆国フロリダ州の水圏生態系汚染?」という演題で、ご講演いただきました。
以下、沿岸環境科学研究センターの川口将史グローバルCOE研究員による報告文を掲載いたします。
Guillette教授らは、フロリダ州に棲息するワニの一種、アメリカアリゲーター(Alligator mississippiensis)の健康状態を指標として、フロリダ水域の汚染の実態を究明してきました。高濃度の農薬汚染や富栄養化が観察されたApopka湖では、野生保護区に比べて孵化率の低いことがわかり、Guillette教授らは胚の致死メカニズムの解明を目指しました。
ワニは33℃ではオス、30℃ではメスが産まれますが、33℃でもエストロゲンを投与すると、メスが産まれます。Apopka湖では野生保護区に比べてメスの出生率が高く、環境汚染物質による内分泌撹乱がワニの性決定に影響を与えたことが考えられます。一方で、Apopka湖のメスは多嚢胞性卵巣症候群などの卵巣形成異常を呈しており、不妊になっていました。Apopka湖と野生保護区のワニについて遺伝子発現レベルを網羅的に比較した結果、TGF?ファミリーのシグナル分子であるアクチビンの発現レベルに差が見られました。アクチビンは卵巣の濾胞形成に関わっており、その量が適切でない場合、複数の卵細胞を濾胞細胞が取り囲んでしまうなどの異常が発生します。以上のことから、Apopka湖におけるワニ胚の致死率の高さは、1) 内分泌撹乱によるメスの高出生と、2) 産まれたメス個体でアクチビンシグナルの撹乱により卵巣形成の異常があるため、次世代の出生率が下がることが原因と考えられました。
Guillette教授らは、工業化学物質や金属類が検出されたケネディー宇宙センター周辺でも、ワニの胚発生や孵化後の発達など複数のステージについて汚染の影響を調査しており、環境汚染物質に対する高感受性ライフステージの解明を目指しています。来日経験の豊富なGuillette教授の講演は非常に聴き取りやすく、またフランクな人柄であるため研究員や学生にとって質問しやすいなど若手との交流を深めることができました。また、講演の中で紹介された野生動物やフロリダの自然のスライドはとても美しく、自然を観察しその特徴を見出すセンスが科学者にとって重要な素養であることも教えていただきました。