平成21年度科学研究費補助金に採択された沿岸環境科学研究センター 磯辺 篤彦教授からメッセージをいただきました。
科学研究費補助金 基盤研究(A) 平成21年度採択課題
急潮予報システムの構築と生態影響評価への戦略的運用
沿岸環境科学研究センター 教授 磯辺 篤彦
このたび、科研費/基盤Aに代表申請した課題「急潮予報システムの構築と生態影響評価への戦略的運用」が、運よく採択されました。まずは科研費申請をご支援くださった職員の皆様に厚く御礼申し上げます。
私は、現在、環境省?地球環境研究総合推進費の助成を受けて、海岸漂着ゴミに関する研究プロジェクトの代表者を務めています。これも、3年間で研究費の総額が2億円近くになる大型研究プロジェクトです。最終年度である今年になって成果が表れ出し、ホッとしていたところでしたが、このたびの採択で、プロジェクトリーダーとしての責務がさらに4年間は続くこととなり、改めて身の引き締まる思いがしています。
今回の採択課題は、四国の南岸を流れる黒潮の一部が時折分離して、瀬戸内海に暖水塊として侵入する現象(急潮)を対象にしています。急潮に伴う水温上昇や強い海流の発生は、地域の水産業にとって決して望ましいものではなく、発生予報は海洋研究者に寄せられた社会的要請でした。一方で、急潮後に植物プランクトンの増殖が観察されることより、沿岸生態系に対するポジティブな役割も指摘されています。本研究は、まず、コンピュータシミュレーションを駆使した急潮予報システムを構築した後、急潮前後の沿岸生態系の変化を、現地観測によるデータ収集やサンプル解析によって解明していくものです。予報システムの利用は急潮前後の集中観測を容易にし、その成果は、外洋擾乱が沿岸生態系に与える影響の研究にとって、ブレークスルーとなることが期待されます。
最後に、今回の申請に当たって私が留意した点を二つばかり述べます。
理工系に限って言えば、論文を学術誌に投稿した際に受ける査読審査によって、研究者は鍛えられるものです。(時には意地悪な)査読者を説得できるよう結論に至る論理を磨き、論理を構築できるだけのスキルを身に付け、研究者は成長していきます。キャリアが始まったばかりの若い人は別ですが、査読付の学術誌に主著者で執筆した経験の乏しい人を、私が共同研究者にお願いすることはありません。力量に疑問があり、成果を期待できないからです。
代表者の私を含め参画研究者はパズルを構成するピースであり、申請研究が、うまくピースが組み合った見栄えの良いパズルになるよう心がけます。参画研究者がそれぞれに役割を担う整合性のあるシナリオを練って、申請書を作成するということです。もちろん、実力派ぞろいの参画研究者なので、実際に研究を遂行するにつれてピースが大きく変型し、私の思惑など超えて研究課題が予想もしないパズルへと発展すれば、これは素晴らしいことです。