平成27年8月2日(日)、科学イノベーション挑戦講座受講生が、第65回日本理科教育学会全国大会中高生ポスター発表で発表しました。科学イノベーション挑戦講座は、科学技術振興機構の次世代科学者育成プログラムメニューB採択事業として3年目の実施になります。 今回、中学生(小田瑞葉さん、川端翼さん、高橋史恵さん、内藤雄太さん)、OG高校生(黒星きららさん、大本理恵子さん)6人が、共同研究してきた「光の回折現象を使ったX線の説明モデルの開発」、「甘酒造りを通した発酵の研究」、「食品添加物を使った腐敗防止の研究」について3件のポスター発表を行いました。
「光の回折現象を通したX線の説明モデルの開発」について
X線を使った結晶解析という科学研究にとって、重要な測定法の原理をわかりやすく説明することを計画したものです。X線は目に見えない強力な電磁波であり、多くの物体を通り抜けます。この性質を医学に利用したものがレントゲンです。レントゲンは発見者、レントゲン博士の名前をつけた医療用測定法ですが、実はレントゲン博士がX線を発見してから17年にわたり、X線がどんなエネルギーなのかは謎のままでした。目に見えないものの解明が、科学者にとって難しいことでした。そこで、本研究ではX線の光の波長を、可視光線まで長波長に移動させて、目に見える光でおなじことを再現しようと計画しました。具体的には、レーザーポインターとCDを45°ずつ傾けて8枚重ね合わせた格子を使って、X線を単結晶に照射したときに得られる回折像を再現しました。
「甘酒造りを通した発酵の研究」について
生麹を用いてデンプンの糖化について研究し、発酵の原理を研究しています。麹中にいるニホンコウジカビは、物質を分解して栄養にするためたくさんの酵素を持っています。そのため、日本では清酒、味噌など多くの製品の製造にニホンコウジカビが利用されていること、高峰譲吉博士がニホンコウジカビからタカジアスターゼを抽出されたことなどから、日本を代表する菌類として2006年には日本醸造協会から国菌と認定されています。 そこで、日本の伝統と関連した科学研究として麹を使ったデンプンの糖化を行いました。私たち人間がデンプンを消化するのと全く同じ過程で、麹菌はデンプンを糖化し、デキストリンと麦芽糖、ブロウ糖の混合物である甘酒に変えます。この糖化反応で温度やデンプンを変えて、ヨウ素デンプン反応と糖度測定から、この糖化反応について研究しました。また、甘酒は通常蒸し米を原料にしていますが、蒸し米以外のデンプンからおいしい甘酒を造るオートミール、豆乳、サツマイモ、サトイモ、ジャガイモ、かぼちゃ、トウモロコシ、小麦粉、片栗粉を原料として甘酒造りに挑戦しました。その結果、糖度は蒸し米が最も高いが、おいしさは蒸し米よりもサツマイモの方がおいしいことが明らかになりました。ニホンコウジカビは今回の実験で測定したデンプン分解酵素の他に、タンパク質分解酵素ももっているため、味の違いはタンパク質分解酵素の役割もありそうです。
「食品添加物を使った腐敗防止の研究」について
8種類の食品添加物(グリシン、ソルビン酸ウエノ、安息香酸ナトリウムウエノ、デヒドロ酢酸ナトリウムウエノ、CC?50、モノプロンA、ホセンエースNK、アジャスター2)が、どのように制菌性を発揮するのかの研究を計画しました。私たちの生活は、いつでも、望むものを食べることができる豊かなものです。この豊かさは二つの科学技術によって支えられています。その一つが冷蔵で、もう一つが食品添加物です。二つの技術はともに食品の保存性、つまり食品の腐敗を防止する技術です。しかしながら、食品添加物は悪者扱いされることが多く、正しい評価が得られない科学技術です。 そこで、実際に研究を通して、食品添加物が腐敗、つまり有害菌の増殖を抑制する効果を調べ、なぜ食品添加物が必要なのか、どうして多くの種類の食品添加物があるのかを研究しました。有害菌には、大きく真核生物と原核生物がいます。真核生物は核膜をもつ生物で、カビや酵母が代表です。真核生物は核膜をもたない生物で、大腸菌や黄色ブドウ球菌が代表です。 そして、真核生物の代表であるカビと原核生物である大腸菌の増殖抑制実験を通して、食品添加物の効果について研究しました。蒸し米にスプレーで添加物を噴霧した場合、蒸し米に食品添加物を溶かした水溶液を加えた場合、大腸菌培地に食品添加物を加えた場合(水溶液と寒天培地)、米を蒸す過程で食品添加物を加えた場合の5つの条件について検討し、食品添加物の有用性について研究しました。その結果、噴霧した場合はデヒドロ酢酸ナトリウムウエノ、水溶液を加えた場合はソルビン酸ウエノ、大腸菌の水溶液はCC?50、寒天培地はソルビン酸ウエノという結果を得ました。蒸す過程で食品添加物を加えた場合は、どの場合も全くカビが生えないという結果になりました。これは条件が整いすぎたためであると考えており、今後の研究が待たれるところです。 (本研究は、株式会社上野製薬の支援によって行われています。) 受講生は、以上3件のポスター発表を参加者に説明し、質疑を受けました。多くの示唆が得られた受講生は、今後の研究について大きな刺激を得たことと思います。 今回の研究発表で得られた示唆を活かして共同研究を発展させ、科学技術振興機構次世代科学者育成プログラム全国受講生研究発表会、日本化学会中国四国支部大会高校生ポスター発表などで発表の予定です。