平成27年7月30日(木)、教育学部で科学イノベーション挑戦講座第3回「私と研究?タマネギと涙の化学?」を開講しました。科学イノベーション挑戦講座は、科学技術振興機構次世代科学者育成プログラムメニューB採択事業として3年目の実施になります。
今回、ハウス食品グループ本社中央研究所研究主幹の今井真介氏を講師にお招きし、「私と研究 ?タマネギと涙の化学?」と題して、2013年にイグノーベル賞を受賞した研究と、研究者を目指すに至った経緯、そして現在内閣府の戦略的イノベーション創造プログラムで実施されている涙の出ない風味の強いタマネギの生産について、講演いただきました。
タマネギを切ると涙が出ます。この事実は誰でも知っていますが、科学者はなぜそうなるのかに興味があります。そこで、タマネギを切ると催涙成分が出てくる原因について活発な研究が行われてきました。そして、今から40年前にタマネギの催涙成分の発生機構について解明され、私たちはタマネギを切るとなぜ涙が出るのかを知っている「つもり」になっていました。しかし、そうではなかったのです。多くの科学者が当たり前だと疑わなかった反応機構に未知の酵素が関わっていたのです。その発見は、ちょっと気になるおかしな現象から始まりました。
今井氏は、レトルトカレーにつかうタマネギが緑化する現象について、会社から研究を依頼されました。タマネギはニンニクと一緒に炒めることで、おいしそうな飴色になるのですが、ときどき緑化してしまいます。緑化したタマネギは製品に使うことができず、理由が分からないと損失が続きます。そこで、今井氏は、緑化を防止するための研究を開始し、さまざまな検討の結果、その予防法を確立しました。
これで会社から依頼された仕事は終了したのですが、今井氏にはちょっと気になる現象がありました。タマネギから催涙成分ができるためには、アリナーゼとよばれる酵素が必要であることが分かっていました。この酵素は、タマネギにもニンニクにも含まれているのですが、なぜかタマネギから取り出した酵素とニンニクから取り出した酵素では、ニンニクから取り出した酵素の方が、緑化が強いのです。「会社の依頼とは関係ないかもしれない、でも、科学者としてなぜそうなるのか気になる。」これが、今井氏の出発点でした。そして研究の結果、40年間誰もが疑わなかった反応機構に未知の酵素を発見したのです。
この成果は、2002年「Nature誌」に発表され、世界に大きな反響を呼び起こし、2013年に「イグノーベル賞」を受賞しました。
未知の酵素の発見は、涙の出ないタマネギの生産に繋がります。この涙の出ないタマネギは、催涙成分の代わりに風味成分を生成するので、涙が出ない風味の強いタマネギの生産が可能になり、内閣府の戦略的イノベーション創造プログラムを通して、その生産が検討されています。
講演後には、中学生を対象に、個別ディスカッションを設けました。熱心に質問する中学生たちに今井氏は、研究とは何かについて「お金があるならお金を使えば良い。凄い機械を使えるなら凄い機械を使えば良い。人が沢山いるなら、人を使えば良い。もし、お金も機械もなくて、人もいないなら、頭を使えば良い。自分自身の利点を最大限使うべきだ。研究を止めるためにではなく、続けるために、きみたちの知識を活かして欲しい」と述べました。
大きな刺激を受けた中学生たちは、共同研究で、この言葉を胸に研究を続けていくことでしょう。
「自分だけのテーマ探しを」2015年08月12日付愛媛新聞(掲載許可番号:G20160801-02313)