本学大学院医学系研究科 医療環境情報解析学 予防医学分野の重本和宏助教授と東京都老人総合研究所の共同研究グループは、動物モデルを使って新しい自己抗原MuSK(msucle-specific kinase)蛋白に対する自己抗体により重症筋無力症が発症することを世界ではじめて解明し、さらにその発症の分子メカニズムを明らかにしました。「ジャーナル?オブ?クリニカルインベスティゲーション」4月号(The journal of clinical investigation)の電子版に発表され、その号のハイライトのトップでも紹介されました。
研究の背景と経緯
重症筋無力症は自己免疫疾患の一つで全身の筋力低下、易疲労性を特徴として、特に眼瞼下垂、複視などの眼の症状もあらわれます。難病のため厚生労働省が特定疾患の一つとして指定しています。現在、全国で患者数は1万人以上存在すると推定されています。重症筋無力症患者の約80%は、末梢神経と筋肉の接ぎ目(神経筋接合部)の筋肉側に存在するアセチルコリン受容体が自己抗体により障害を受け、神経から筋肉への命令が十分に伝わらないために発症します。残りの約20%の半数の患者でMuSKに対する自己抗体が検出されることが最近の調査で明らかになりましたが、重症筋無力症の発症原因は全くわかっていませんでした。
MuSKに対する自己抗体を保有する重症筋無力症患者は、嚥下障害、発語障害、呼吸困難、筋萎縮などの症状をもつ重症例が多く、治療にも良く反応しない場合が多いことがわかっています。従ってMuSKに対する自己抗体陽性の重症筋無力症の診断、治療、予防のためには、その発症メカニズムを明らかにする必要がありました。
今回の論文の概要
ウサギに、遺伝子工学の技術により人工的に作成したMuSK蛋白を免疫すると重症筋無力症と同じ症状、筋電図所見があらわれました。さらに、発症したウサギの神経筋接合部では、正常に比べてアセチルコリン受容体が顕著に少なくなっていました。次に、発症したウサギ血清中に含まれるMuSKに対する自己抗体がどのような分子メカニズムによって神経筋接合部のアセチルコリン受容体を減少させたのか調べました。その結果MuSKは神経筋シナプスのアセチルコリン受容体を維持させるために必須で、自己抗体はその機構を障害するために症状が発症することが明らかになりました。
今後期待出来る成果
MuSKに対する自己抗体陽性の重症筋無力症は難治性で重症例も多く、今回その発症メカニズムが明らかになったことで、その早期診断、治療、発症予防の研究に道が開かれました。
The journal of clinical investigation は、こちらから(学外サイト)
医学部総務課