地球深部ダイナミクス研究センター(GRC)の土屋旬准教授(東京工業大地球生命研究所兼任)が、コーネル大学のMainak Mookherjee博士との国際共同研究で、地球深部への水の運搬を担っていると考えられる鉱物の詳細な性質を理論的に明らかにしました。
地表付近に大量に存在する水の一部は、プレートの沈み込みに伴って地球深部のマントル(深さ30-2900キロメートル)へ含水鉱物としてもたらされます。2013年、土屋准教授は、プレートによって運ばれた含水鉱物が下部マントル付近において新たな含水鉱物(H相)へと変化するという理論予測を発表しました。この理論予測を受け、2014年、本学の実験グループは、H相の存在を超高圧実験により確認しました。この一連の発見をもとに、各国の研究者によって、H相の研究がなされています。
本研究は、H相の詳細な結晶構造や、H相の存在を観測で調べるために必要な弾性的性質について、第一原理計算と呼ばれる理論計算手法により明らかにしたものです。
H相はマントルと核の境界付近の深さ2900キロメートルまで水を運ぶ可能性を持っています。水の存在は岩石の溶ける温度を下げるため、マントル最下部でのマグマの発生を引き起こし、これによりマントル最下部に観測される超低速度層や、この付近に起源を持つマントル上昇流(プルーム)などの原因になる可能性があります。また、地球中心核の主要物質である溶融鉄への溶け込みなど、地球深部の物質や運動(ダイナミクス)の解明において、重要な影響を及ぼすものと考えられます。今回決定されたH相の弾性的性質は、このような地球深部の水の循環経路を調べる上で非常に重要な情報と言えます。
本研究は、イギリスNature出版のオンライン総合科学誌Scientific Reportsの10月23日版で発表されています。
掲載論文
Jun Tsuchiya and Mainak Mookherjee, Crystal structure, equation of state, and elascitiy of phase H (MgSiO4H2) at Earth’s lower mantle pressures, Scientific Reports, 5, 15534, doi: 10.1038/srep15534