平成27年11月27日(金)、科学イノベーション挑戦講座を受講している中学生が、光合成を司る葉緑素の単離と銅クロロフィルの調製に挑戦しました。
科学イノベーション挑戦講座は、国立研究開発法人科学技術振興機構の次世代科学者育成プログラムメニューB採択事業として、3年目の実施になります。
今回は、植物が太陽光を吸収して成長するために必要な光合成を司る葉緑素のなぞに挑戦しました。植物の成長に光が関わっていることは学校教育を通して何度も学習しますが、植物の光合成は生物領域として学習するため、光を捕集する機能を持つ分子、葉緑素の構造については学習しません。一方で、葉緑素を含むポルフィリン構造(図1)は、大学では光化学の重要な分子として、たとえば光増感剤として太陽光電池の機能を増幅させるために、現在も活発な研究がなされています。そこで、本講座では学校教育の真空地帯である葉緑素の構造のなぞに挑戦しました。
自然界にある物質は、ほとんどの場合混合物で、私たちはさまざまなものが混ざった物質を見ています。そのため、葉緑素の構造を調べるためには、まず混合物から葉緑素を分離しなければなりません。本講座では、カラムクロマトグラフィーという手法を使って、クロレラ(緑藻類)とスピルリナ(藍藻類)の緑色の色素を、黄色と青緑色、その他の物質に分離しました。カラムクロマトグラフィーとは、ガラス管の中に特殊なシリカゲルを詰めて、溶媒を流して混合物を分離する方法です。混合物は、シリカゲルへのくっつきやすさと溶媒への溶けやすさによって、純物質に分離します。私たちの目には緑色に見える物質も、カラムクロマトグラフィーによって分離すると、黄色、青緑色、緑色などさまざまな色の物質が混ざっていることが分かります。そして、紫外可視吸収スペクトルと分子が吸収する光と色の関係から、黄色の分子を緑黄色野菜に豊富に含まれるβ-カロテン、青緑色を葉緑素と同定しました。
次に、葉緑素に塩酸を加えて、葉緑素からマグネシウムを取り去ります。この化合物はフェオフィチンとよばれ、緑色?褐色の不思議な色をしています。そこに、今度は塩化銅水溶液、もしくは塩化亜鉛水溶液を滴下すると、塩化銅を入れたものは青緑色(銅クロロフィル)、塩化亜鉛を入れたものは黄色(亜鉛クロロフィル)に変化します。銅クロロフィルは着色料としても使われる安定な化合物であり、亜鉛クロロフィルは紅色光合成細菌で光合成に使われています。このように、葉緑素は試薬で処理することで多彩な色を見せますが、その分子構造は変わっていません(図2)。 そこで、生徒は紫外可視吸収スペクトルを比較することで、葉緑素の構造が変わっていないこと、光を吸収する二つのピークが変化することで色が変化していることを明らかにしました。
私たちは、物質の構造の変化を色の変化として捉えることができます。つまり、分子は小さいですが、決して見ることができないわけではないのです。しかし、色の変化が何を意味しているのかは、色だけではわかりません。そこで、分析化学が必要になるのです。人間の五感は鋭敏ですが、その能力を過信せず、わかることとわからないことを整理し、私たちが何を知り、何を知らないのかを考えられるようになったとき、中学生は科学者として大きく羽ばたくでしょう。