この授業では、「女性と美術教育─なぜ日本女性の国立美術学校入学は遅れたのか?」という題目の下、フランス?ドイツ?日本の女性芸術家の活動や取り巻く環境を比較することで、その理由を解明していきます。また、各国の女性芸術家にも目を向け、芸術界におけるジェンダー不平等について理解を深めます。

授業内容

この授業は、法文学部人文社会学科の専門教育科目として開講されています。今回は第8回の講義の内容をお届けします。

「冒頭では前回のおさらいをするので、この時間帯に来てください」とのことで、授業の途中から取材に向かいました。スライド投影のため、少し薄暗くなった教室に入ると、スクリーンには印象的な絵画が映されていました。投影されていたのは、中央に大きな黄色い模様が3つ描かれ、その周りを点や線、大きさも形も様々な図形が取り囲んだ抽象画。スウェーデンの女性画家ヒルマ?アフ?クリントの「10枚の大作:壮年期」という作品です。作品をじっくりと眺めた後、あくまで抽象画の鑑賞において正しい答えは無いということを前提に、この作品が何を表しているのか、また受講生たちがどういった意図を感じとったかについて、ペアに分かれての話合いがスタートしました。

絵画を鑑賞する時に重要なのは「タイトル」「サイズの大小」「素材(画材)」という説明を受けつつ、受講生たちはそれぞれ感じたことを共有し合います。「黄色い図形の上部は雌雄を、重なった部分は果実ではないか」「周りに描かれた図形が細胞に見える」「『壮年期』というタイトルから、生命の成長過程を表現しているのでは?」など、受講生たちの考えが次々と発表されると、その一つ一つに先生は頷きながら補足を加え、鑑賞を深めていました。

続いて、伝記映画『Hilma』を基に、作者のヒルマ?アフ?クリントが紹介されました。彼女が影響を受けた神秘主義という存在や、また女性であるが故に白人男性が優位だった美術史において、その存在が長い間知られていなかったという話を、学生たちは興味深げに聞き入っていました。

「芸術」と聞くと、専門的で自分には遠い分野にも感じていましたが、今回の講義を経て、ただ作品そのものについて考えるだけでなく、その作品が作られた背景、時代、作者の思想など、様々な観点から学び、楽しむことのできる分野なのだと知ることができました。これからを生きる大学生にとって、社会が抱えた多様な問題と向き合うきっかけとなる授業だと感じました。

教員からのコメント

「女性と美術教育」と題するこの授業は、女性芸術家の名を挙げるというグループワークから始まりました。みなさんは女性芸術家を何人知っていますか? 水玉のかぼちゃで有名な草間彌生氏はご存知かもしれませんね。でも、よほど美術に詳しくない限り、その次の名前が出てきません。ダ?ヴィンチ、ピカソ、北斎、男性ならば古今東西すらすらと出てくるのに……。

女性には美術の天分が欠けていたのでしょうか? そうではない! 女性を取り巻く環境に問題があったのだと証明し、美術におけるフェミニズム研究を開いたのはアメリカの美術史家リンダ?ノックリンです。今期の芸術学特講の授業では、彼女の論文「なぜ偉大な女性芸術家はいなかったのか」を手掛かりに、フランス、ドイツ、日本の女性美術教育を比較し、日本女性の国立美術学校入学許可が第二次世界大戦後にまで遅れた理由はなぜか、探っていきました。

芸術学特講の授業では、一枚の絵をじっくり眺め、そこに何が描かれているかを言語化するディスクリプション(描写)を重視しています。一つ一つのモチーフを丁寧に観察することで、絵画への没入を味わうことができます。受講生同士の意見交換を通じて、他者に見えている世界と自分に見えている世界は違うのだと実感できるのも、この授業の醍醐味です。

この日に取り上げたのは、スウェーデンの抽象画家ヒルマ?アフ?クリント(1862-1944)。彼女は死に際して、死後20年は作品を公開しないようにと遺言を残しました。それは、自分の絵画が世間に理解されないと知っていたからです。抽象絵画はまだ新しいジャンルでしたし、ましてや彼女は女性でした。アフ?クリントは誰よりも早く抽象表現に辿り着いたにもかかわらず、その名は次第に消えていきました。再評価の機運が高まったのは、死後半世紀も経った頃です。回顧展が開催され、今では世界的に人気の高い画家となっています。2025年春には日本初のアフ?クリント展が開催されます。お見逃しなく!

受講学生のコメント

法文学部人文社会学科 4年生 熊本 あきら さん

大人になるにつれ、自分が女性であるが故に抱く社会に対するモヤモヤが増えたように思います。

芸術を通し女性の置かれた社会的立場と闘いの歴史を見ていくこの授業は、私にとってモヤモヤを言語化し、解決の糸口を示してくれる大切な時間です。きっとこのモヤモヤとは一生付き合っていかねばならないのでしょう。だからこそ学生の今、フェミニズムについて学ぶことに大きな意義があると思い、この授業を選択しています。

法文学部人文社会学科 2年生 達山 夏琉 さん

女性芸術家たちがどのような問題に直面し、それを乗り越えてきたのかを知ることで、今の自分たちが、女性を取り巻く社会問題に対してどう向き合えばいいかを学ぶことができます。毎回たくさんの芸術作品に触れられるので、とても癒されます。

今の自分が抱えている生きづらさの原因に気付き、それを解決していくためのヒントをもらえるかもしれません。女性はもちろん、男性もぜひ受講してみてください。