この授業は、理学部理学科の2年生以上を対象とした全15回の授業です。
物理化学Ⅰで学習した熱力学の基本概念を活用し、溶液の性質と相転移(状態変化)を学びます。
ヘンリーの法則やラウールの法則、沸点上昇や凝固点降下などの現象について、希薄な溶液の性質を理解し、説明できるようになることを目指します。

授業内容

第14回目の授業を取材しました。とても暑い日だったので、授業のために集まってきた受講生たちは、水筒などの飲み物を持参し、チャイムが鳴る前に集まっていました。

受講生は事前にMoodle(e-Learningを支援する学習管理システム)で配付された演習問題と講義資料(レジュメ)で予習してきており、この日の授業では演習問題の解答と解説が行われました。

今回は「二成分系の相平衡図」に関する演習問題についての説明がありました。相平衡とは物質の複数の相が安定した状態で共存していることです。温度一定や圧力一定の場合の「二成分系の相図」について、演習問題に沿った説明が行われました。

まずは、気-液平衡の相図について、「与えられたデータから相図を書くということが、相図を理解する一番の方法」と前置きし、気相と液相を示す線を丁寧に描き、グラフの読み方を説明しました。「細かい点で正確なグラフを描くことが学術的には重要。微分ができないと話が成立しない。」という言葉が印象的でした。設問の条件で描かれた気-液平衡の相図は葉っぱのような形をしており、縦軸が温度(圧力一定)になるか圧力(温度一定)になるかで、液相線と気相線の上下は逆になります。

次に、液-液平衡の相図です。ドーム型の相図を描き、ドームの内側は、二つの液体が二相に分かれており、温度が上がりドーム頂点の臨界溶解温度を超えると、どの組成においても完全に混ざり合い一相になるという説明がありました。

その他の演習問題においても、「どの点をきかれているのか?」「気相線か?液相線か?」「そのまま値を答えればよいのか、1から引いた値を答えればよいのか?」と解答のためのポイントを分かり易く示していました。

教員は黒板いっぱいにグラフや式を用いて丁寧に解説してくれるため、受講生の理解もさらに深まります。随所で「ここは線を引いておいた方がいいですね」と重要な部分を教えてくれるため、皆、真剣な面持ちで授業を聞き入っていました。

様々な物理?化学現象は、理論的に説明できるよう多くの法則が発見され、それを基礎としてさらに研究が進められています。「熱力学」は応用範囲の広い理論であるため化学分野での応用も可能とのこと。この授業を受講して理論を理解し、次のステップへ進んでいただきたいと思います。

教員からのコメント

この講義の名前についている「物理化学」とは、文字通り物理に則っていろいろな化学現象を考える学問です。宇宙の果てから細胞の中に至るまで、どこで起こっている化学変化でも、すべて自然界の法則すなわち「物理」に従っています。さらに地球環境と密接な関係にある気候変動など、通常あまり化学反応というイメージがない現象も、やはり「物理」に従っています。いわば理論にあたるのが物理、それに基づき新しい現象や物質を実現するのが化学、その両方を二刀流で扱うのが「物理化学」です。ですので、奥が深く、たくさんの知識が必要になるため、時間をかけて一歩一歩学んでいきます。「物理化学Ⅱ」という講義では、「物理化学Ⅰ」に次いで「熱力学」という分野を学びます。例えば電池やクーラー、自動車のエンジンなど、化学現象を利用したエネルギーの変換や利用法にかかわる分野です。それだけでなく、自分が頭の中で考えた未知の反応が本当に起こせるか、それを起こすのにどういった条件やエネルギーが必要か、どの程度の危険を伴うかなど、いろいろな予測ができるようになります。決して易しくはない内容ですが、その面白さに気づき、夢中になって勉強する学生が必ず現れるのも特徴です。一度その面白さに取りつかれると、時がたつのも忘れて熱中します。その意味で物理化学の“熱中症”になっている学生を一人でも多く育てたいというのが、この講義の狙いです。もし皆さんの中でまだ世の中にない物質や機能を開発したり、未知の現象を発見したいという人がいれば、迷わず飛び込んできてください。

学生からのコメント

理学部 理学科化学コース 2年生 岡田莉花さん

この授業を通して、純物質や互いに反応しない単純な混合物の物理的変化?現象について熱力学的側面から理解することができるようになりました。化学専攻が熱力学を勉強することは意外かもしれませんが、化学を理解するためには熱力学の理解は必要であり、実際に私も生物化学や無機化学といった他の授業でその重要性を感じています。本授業では到達目標への途中過程でギブズエネルギーなどの新たな概念が多く導入されるので、予習の段階では難しいと感じるかもしれません。しかし、授業の中で教科書の要点やわかりにくい表現の説明を丁寧かつ論理的にしていただけるため、受講後は内容がかなり整理され理解が進んでいると思います。本授業内容は他の分野においても重要であるだけでなく、身近な現象から少し変わった現象まで科学の観点から考えることができ面白いので、少しでも興味のある方は是非履修してみてください。