この授業は、大学で専門分野を学ぶ上でも、卒業後に社会で活躍するためにもデータ解析の知識と能力が欠かせなくなっている中で、様々な種類のデータを、科学的知見から客観的に分析する手法の基礎を数理的思考に重点を置いて学ぶことを目的としています。

授業内容

この授業は1年生を主な対象としており、取材した日は第7回目の講義で、講義室いっぱいの学生が受講していました。
教科書は使用せず、e-Learningの学習管理システムであるMoodle(ムードル)を通じて提供される資料を使用します。受講生は皆、個々のパソコンを開き授業に臨みます。

先生からは、事前に課題が与えられており、資料を熟読しておくことが求められます。
授業は、その課題に対する解説から始まりました。今回の課題は平均値、中央値、最頻値の考察で、「いつでも平均をとることに意味があるとは限らない」との解説では、松浦先生の好きな野球に関するデータを例に挙げ、分かりやすく説明していました。

続いて、相関関係についての説明に入り、前回の授業の復習として、「2つの変量に相関関係があるからと言って、因果関係があるとは限らない」という内容が取り上げられました。
その後、この日の授業では、右肩上がりの正の相関、右肩下がりの負の相関について、相関係数を使ってより詳しい説明がなされました。資料には、Σ(シグマ)を使った数式が並び、一見難しそうに思いましたが、実際は難しい計算を行うのではなく、その式によって何を求めるのかと、算出したデータが持つ意味についての説明が中心で、データを扱う際に注意すべきことを学ぶことができます。

また、散布図を描いてみることの大切さについての説明もあり、「ごちゃごちゃ計算する前に、まずグラフ化すると見えてくることもある。パソコンを使うことで難しい解析ができてしまうが、難しく考える前にまずは原始的な方法で良いのでデータの性質を見極める必要がある」と強調されました。この言葉は印象的であり、学生が今後専門分野に分かれて研究を進める上で役に立つ基礎的な授業だと感じました。

この授業はクォーター制で全8回のため、まとめの時期に入っており、授業の終わりにはレポート提出についての説明がありました。評価基準についても詳しく提示され、4月に入学してまだまもない1年生にとっては大学での授業への取り組み方の学びにもなると思います。
全体を通して、具体例が身近で分かりやすく、まさに「基礎」授業です。受講して、ぜひ今後の研究に生かしてください。

教員からのコメント

今、世界的にAI(人工知能)やデータサイエンスが脚光を浴び、各国が激しい開発?活用競争を繰り広げています。日本でも、データの活用能力が社会人に必須の基礎的な能力であるとの認識が広まっています。

この授業では、データの基本的な見方や取り扱い方を学びます。授業で身に付けたことは、卒業研究などで実験?観測データを分析する際に役立つほか、卒業後に「データに強い人材」として、社会で活躍するための基盤にもなります。理学部には、数学?データサイエンス?AIを専門的に学ぶ「数学?数理情報コース」が設置されていますが、この授業は同コース以外の学生も受講可能で、実際、大半の理学部生が受講しています。

授業では、日常的な例に加え、私が個人的に興味のあるプロ野球(特に、私が応援する中日ドラゴンズ)や海外(特に、私が住んだことのあるスウェーデン)に関するデータも例示しています。もちろん、受講生が全員、プロ野球や海外の話に興味を持つとは限りませんが、それでもあえて、私自身が好きなことを話題にしています。学問というのは、本来、嫌々学ぶものではなく、知的好奇心に駆り立てられ、無我夢中で探究するものだと思います。そのことを伝えるために、興味あるデータを楽しく分析するという姿勢を自ら見せることが重要だと考え、実践しています。

ところで、AIを用いれば何でも実現可能だとの幻想がありますが、AIは原理的に不可能なことを可能にする「魔法の道具」ではありません。AIといえども、時代を超えて普遍的な科学的原理には逆らえません。そして、その普遍的な原理を探究するのが理学部の教育?研究の特徴です。科学技術は時代とともに急速に進歩し、大学で学んだことも、日々、古くなっていきます。しかし、理学部の授業で学んだ科学的原理は、生涯を通じて普遍的な存在です。「数理情報の基礎」の授業内容も、受講生の皆さんに、長く人生の拠り所としてもらえたら幸いです。

受講学生のコメント

理学部理学科 1年生 岩井 依玖海さん

「相関関係があるから両者の間に関係性があるだろう」と考えていませんか?高校までに習った数学の範囲ならこのように考えますよね。本講義では、データを科学的見地から客観的に分析する手法の基礎を学びます。データを分析する手法は複数に分かれているため、先生は1講義1キーワードのペースで事例を挙げながら説明してくださいます。例えば、あるデータに相関関係があるからといって因果関係があるとは限らない、逆に、因果関係があるからといって相関関係があるとは限らないというような内容について学んでいきます。

この授業を通して私は、データに対する考え方が変わったと感じています。なぜなら、データを1方向から考察するのではなく、Excelの機能を利用しつつ、数値やグラフなど様々な視点から分析することができるようになったからです。

これらの点を踏まえ、将来データを分析するような職業に就きたい人、データ分析に興味のある人には、この講義を受講することを強くお勧めします。