この授業では、分子生物学の基盤である遺伝子の発現やその制御に関する仕組みについて理解し、生命科学の基礎知識を習得することを目的としています。
授業内容
学生たちは、前回の授業で遺伝子の本体であるDNAの複製(合成)について学んでいます。DNAは2本の鎖からなり、DNAの複製においてできる2つの新しいDNA鎖は、元々のDNA鎖の1本と新たに合成された鎖1本をそれぞれ含むという半保存的複製について復習しました。
それを踏まえ、今回はDNA複製(合成)を用いた技術について学習しました。その一つであるポリメラーゼ連鎖反応(PCR)は、耐熱性DNAポリメラーゼという酵素によるDNA合成反応を利用して目的のDNA領域のみを多量に増幅する方法で、下記のような手順で行います。
①DNAの熱変性を利用して、2本鎖DNAを1本にかい離させる(98℃)
②増幅したい目的DNA領域の末端にプライマー(DNAポリメラーゼが DNA を合成する際に必要な核酸の断片)を結合させる(50℃)
③耐熱性DNAポリメラーゼによりDNA鎖が合成される(72℃)
①~③をn回繰り返すと、目的のDNA領域は2n倍程度まで増幅されます。
このPCRを利用した例として、ある海域で魚から体表の粘液などとともに水中に放出されたDNA(環境DNA)を分析することで、DNAを放出した魚の種類を判定するという研究が紹介されました。この技術により、魚を捕獲することなく、また労力と時間をかけずに魚類多様性のモニタリングが可能となりそうです。
また、品種?産地等を科学的に検証するため、米の品種鑑定においてもPCRが利用されています。米から抽出されたDNAから品種に特異的な遺伝子領域をPCRにより増幅し、PCR産物を電気泳動装置で分析する手法が広く用いられていることが示されました。
この授業を通して、学生たちは、生命現象を分子的視点から理解し、生命科学の知識を深めていきます。
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教員からのコメント
この講義では、生命現象の基本となる遺伝子に関する基礎知識や、組換えDNA技術などのバイオテクノロジーを理解するために必要な知識を学びます。
バイオテクノロジーは「バイオロジー(生物学)」と「テクノロジー(技術)」から成る造語で、生物の持つ働きを上手に利用するための技術です。発酵や品種改良もバイオテクノロジーの1つですが、「バイオ」と聞くと「遺伝子組換え作物」「ゲノム医療」「遺伝子工学」など、遺伝子を操作する組換えDNA技術を思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。組換えDNA技術をはじめとするバイオテクノロジーは、食品、医療、環境浄化、エネルギー問題に至るまで幅広い分野で利用され、我々人間の現代生活に欠かせないものとなっています。
これらバイオテクノロジーに関わる事柄を正しく理解するためにも、遺伝子に関する基礎知識は必須です。講義では難しい専門用語もでてきますが、単なる暗記科目ではなく、実生活と関連付けながら理解してもらえるように、新聞記事やムービー等の教材も用いて、遺伝子やタンパク質の基礎について分かり易く紹介していきたいと考えています。
学生からのコメント
「遺伝子制御学」という授業では、DNA複製 (DNA replication)、転写 (Transcription)、タンパク質合成 (Translation)、組換えDNA技術 (Recombinant DNA Technology)の仕組みについての知識を学習します。
これらは高校の生物の授業で習ったと思いますが、高校の範囲をより深く掘り下げた内容を私は今学んでいます。例えば、ヌクレオソームはDNAがヒストンと呼ばれるタンパク質に巻き付ついたものですが、それではなぜヌクレオソームを形成することができるのでしょうか。それは、ヒストンが陽イオン性のタンパク質であり、DNAはリン酸を分子外側に持ち、負電荷を帯びているためだと、この授業を通して知りました。このように、高校で習った範囲の延長線の知識を得ることができるので「そういうことだったのか!」と発見することが多く楽しいです。
受験生の皆さん、入試までもたくさん勉強して辛いこともあると思いますが、春からの新しい生活に期待して努力を続け、大学生になっても自分の興味のあることをとことん追求し、実のある大学生活にしていきましょう。