この授業は、環境化学の基礎と応用を習得し、有害物質の環境監視とリスク評価に関わる政策提言ができるようになることを目標としています。
授業内容
今回は、人工有機化合物による汚染について学習しました。まず、教員から、アメリカ化学会ケミカルアブストラクトサービス(CAS)に登録される新規化学物質は年々増加しており、現在では約1億種にも上るとの説明がありました。これらの化学物質の多くが、日常生活の利便性や食糧生産、安心?安全の向上に貢献しています。しかし、環境中に流出?残留することで、ヒトや野生生物?生態系に有害な影響を与えており、発ガン性、免疫系?内分泌系?神経系への影響等が問題視されています。
このような背景を踏まえ、化学物質による環境汚染の歴史や毒性影響などについて、詳細な説明に入りました。農薬の一つであるDDTは、1939年に殺虫効果が発見され、戦後大量生産?利用されたものの、残留性?生物濃縮性?非標的野生生物への毒性が顕在化することが分かり、日本では1971年に農薬登録が失効しました。
また、主に電気機器の絶縁油に利用されているポリ塩化ビフェニール(PCB)が、1968年に食用油に混入し、カネミ油症事件が起きたことについて取り上げ、その要因や被害(色素沈着や塩素挫瘡などの皮膚障害、肝機能障害など)が説明されました。また、このような問題から、PCBのような難分解性?高濃縮性の化学物質に対して、その製造?使用の規制が求められ、1973年に化審法が成立したことや、2001年にはPCB処理特別措置法が制定され、PCB使用の全廃、適正処分が進められているとの解説がありました。
最後に、非意図的に発生する有害性の高い化学物質の代表例として、ダイオキシン類に関する解説がありました。教員から、学生に対して、ダイオキシンの発生要因について質問されると、学生は回答に苦戦していました。ダイオキシンは、廃棄物焼却によるものだけでなく、農薬の不純物やパルプ製造時の塩素処理過程、金属の精錬過程からも発生するとの解説があり、学生は理解を深めていました。
授業では講義内容をまとめたノート(穴抜き方式)が毎回課題として提出されます。学生の予習?復習に用いられるとともに、講義を聴きながら、学生がキーワード等を書き込んで確認することで、専門的知識を効率良く習得するために活用されています。
教員からのコメント
日本は、戦後四大公害病に代表されるような深刻な公害?環境問題を経験するとともに、それらを克服するための様々な法律の導入や対策が講じられ、現在ではもっとも環境対策の進んだ国の一つとして認知されています。一方、地球規模でみれば、オゾン層破壊や温暖化の進展、有害廃棄物の越境移動など、21世紀において解決すべき環境問題が多く残されています。
この講義では、そうした環境問題を単に知識として覚えるだけでなく、実際の公害や環境破壊の現場などの貴重な映像をおさめたビデオ等の教材も用いて、私たちの身近でかつて起きた、あるいは現在進行している問題として捉え、その背景や要因について深く考察しながら、環境化学に関する専門的な知見や物の見方を学んでもらえるように心がけています。また、現代の私たちの生活は、非常に多くの化学物質の利用により成り立っていますが、それら化学物質の利用に伴うベネフィットとリスクについて、化学的な専門知識に基づいて理解できることが、今後の社会をリードする人々にとって必要なリテラシーになると考えています。
講義では、PCBやダイオキシン類といった残留性の化学物質群についてその化学的特性や毒性などを詳述するとともに、環境ホルモン問題など最近のトピックについても取り上げて、環境化学の基礎から最先端までを解説しています。今後の持続可能な社会の構築のためにも、環境化学に関する専門知識や素養は欠かせません。日本および世界の環境問題の解決に貢献したいと考えている学生さんは、ふるってご参加いただきたい講義です。
学生からのコメント
この授業では、化学物質が環境や生態系にどのような影響を与えるのかについて学びました。具体的には、難分解性、生物蓄積性のあるPCBのような化学物質や水銀、カドミウムのような重金属類、DDTなどの有機塩素化合物が、地球環境や生態系にどのような影響を与えてきたのか、また、これからどのような影響を与えうるのかなどについて学習しました。
私たちは、生物環境保全学コースに所属していますが、これから地球環境や生態系の保全について勉強していく上で、基礎であり重要な多くのことを学ぶことができました。そして、私たち人間は、地球環境やそこに住む生物たちに対してどのように向き合い、共存していくべきかを考えさせられました。
また、高橋先生はちょっとした疑問にでも丁寧に答えてくれるので、理解をより深めることができ、毎時間がとても有意義なものでした。