この授業は、地域の医療現場における患者中心のチーム医療の一員としての医師の役割を理解し、地域医療の在り方と現状、課題を理解し、地域医療に貢献するための能力を身に付けることを目的としています。

授業内容

取材したこの日、授業開始の10分以上前から、講義室には多くの受講生が着席しており、賑やかな雰囲気でしたが、開始時間になるとすぐに、教員が前回の授業での小テストの回答と解説を始め、受講生達は、授業モードに切り替わり、静かに個々のパソコンやタブレットで資料を確認し始めました。書き込みは、紙のノートではなく、タブレット上に直接書き込む姿も多く、デジタル化を感じます。

小テストの確認の後、「生活習慣病と行動変容」をテーマとしたこの日の講義が始まりました。地域医療とは、「地域住民が安心して暮らせるよう健康上の問題を中心として、保険?医療?福祉などあらゆる地域における要望に対応する活動」と定義され、今これを行える医師が非常に必要とされており、こういった活動の中に行動変容が重要になっているとの説明があり、行動変容について、具体的な説明がなされました。
行動変容とは、人の行動が変わることで、行動変容に繋がるためには、その人にあった具体的な提案が必要であるとし、「無関心期」→「関心期」→「準備期」→「実行期」→「維持期」といった行動変容のステージのどの位置にいるかを考えながら指導すること、個々の患者さんに合った話をすることが大切ということでした。

具体的な例として、肥満対策について取り上げられ、「運動の大切さを説明する」「脅すのではなく反応を見る」「良い点を褒めることで継続に繋げる」「周りの環境を変える」などの指導内容が提示されました。中でも、多くの人が成功している例は、体重を毎日つけることの効果ということで、実際の記入シートを示しながら説明されました。
他にも、授業の中では、生活習慣改善に対する困難さについて、「できるだけ楽をしたい、美味しいものを食べたい」という本能や、「自分より生活習慣の悪い人が元気でいる」というような迷信?風潮、「日常を変えたくない、あるいは変えられない」という優先順位、「そもそも自覚症状がない」という危機感の欠如など様々な要因が述べられ、それぞれどのように対策すべきか、教員が医師として実践していることを交えながら話されました。話を聞きながら、身に覚えのある話や耳が痛い話もあり、それだけ分かりやすく納得できる内容が詰まっており、医療関係者を目指す人はもちろん、広く一般市民皆にも役立つ授業です。

この授業を経て、多くの学生が地域に寄り添い、地域医療に貢献してくれることに期待します。

教員からのコメント

地域医療学は、「保健?医療?福祉など地域における様々な要望に対する活動に関する学問」とされています。国民を取り巻く健康問題は、地域における超高齢化やそれに伴う疾病の複雑化、要介護者の増加、生活習慣病の増加など、近年ますます多様化しています。こうした現状の中で、地域における住民のニーズには、疾病の診療にとどまらず、家族?職場?地域を視野に入れた幅広い医療活動が強く求められています。

地域医療学講座は、地域に根付いたプライマリ?ケア教育の充実?研究?診療を目的として、愛媛県からの寄附講座として設立されました。本講座が実施する講義は、地域医療における基礎と実践から構成され、様々な領域に進む医学生が、地域医療において必要となる考え方や実践の仕方について学べるように設けられています。

講義は25コマ(1コマ1時間)のテーマで行われ、プライマリ?ケア、患者中心の医療、EBM(根拠に基づく医療)とNBM(物語に基づいた医療)、多職種連携活動、臨床倫理、行動変容、予防医療、在宅医療、終末期医療、地域での研究、日常病の臨床推論などが含まれます。

こうした講義は、学際的であり、他の講義とは明らかに異なります。卒業後、多くの医学生が必ず地域医療に従事し、地域に貢献することが求められるため、不可欠な学びであると言えます。

受講学生のコメント

この講義では、将来地域で医師として働くために必要なことを学ぶことができます。地域医療は、高齢者の健康寿命を意識した予防医療から死に直面した方を看取る終末期医療まで幅広い分野にまたがっており、医療だけでなく保健や福祉など多職種の方々と連携することが必要となります。この講義を通して、在宅医療と病院での医療の違いや、臨床の現場で患者さんとコミュニケーションを取る方法、多職種で連携して在宅医療や看取りを行う方法等について学ぶことができます。また、地域医療では、一人の医師が患者を総合的に診る力が必要となります。講義の中で、症例をもとにどのような病気かを考えるため、問診の仕方や疾患をどのように絞っていくかについて実践的に学ぶことができます。高齢化が進み、地域での医療の需要がさらに高まる中、学生時代から地域医療について学んでいくことは大切であると思います。