宇宙プラズマ爆発現象の解明
※掲載内容は執筆当時のものです。
フレア爆発現象を宇宙探査機観測とコンピュータシミュレーションで明らかに
研究の概要
宇宙では、様々な爆発が起こっています。皆さんがすぐに思いつくのは超新星爆発でしょうか。星そのものが爆発するため、想像を絶するエネルギーが放出されます。しかし、我々の太陽系付近では、そう簡単には起こりません(起こったら大変ですが…)。もう少し身近な爆発現象に太陽(恒星)フレアがあります。可視光ではわかりにくいですが、X線や紫外線などで急激な増光(爆発)が見られます。今はちょうど太陽活動が活発な時期に差し掛かり、月に100を超える黒点が発現し、その黒点上空で大規模フレアが観測されています。小さな黒点でも地球サイズです。まして地球サイズより大きな黒点の集まった場所で起こっている太陽フレアが如何に大きな爆発か想像できるでしょう(図1)。
そしてさらに身近なところでは、オーロラ爆発が地球磁気圏極域で観測されます。オーロラ爆発は地上から見れば非常に美しい現象ですが、その実、爆発的に加速された粒子が宇宙から極域大気に降り注ぐ現象です。この粒子の加速は、地球磁気圏の磁場のエネルギーの爆発的な解放が関係しています。そして、先ほどの太陽フレアもその爆発のエネルギーは磁場のエネルギーなのです。これらの磁場をエネルギー源とした爆発現象が私の研究対象です。
研究の特色
地球(惑星)の磁気圏では、主に地球の磁場と太陽(太陽風)磁場のぶつかる場所(昼側)と地球の磁場が引き延ばされた地球の磁場同士のぶつかる場所(夜側)の2か所で磁気エネルギーの爆発が起こっています。宇宙プラズマの研究のすばらしいところの1つは、探査機を実際に現象の起こっている場所に送り込むことができることでしょう。私達は多くの探査機をその爆発が起こっている場所に送り込み、直接観測を行っています(図2)。しかし、想像してみてください。複数の探査機を送り込んだとしても、探査機は広い磁気圏空間の数点でしかないのです。これらの探査機の間の空間を埋めてくれるのがコンピュータシミュレーションです。探査機で得られた観測データと三次元空間に再現したシミュレーションデータを用いて磁気圏で起こっている爆発現象を調べることができるのです。
一方、太陽には探査機を送り込むことができません。送り込んだとしてもすぐに焼滅してしまいます。しかし、太陽で起こっている現象はその全体像を観測することができます。惑星磁気圏では観測できない爆発の全体像を見ることができるのです。さらに、多くの波長で同時観測することでフレアの時間発展を詳細に知ることができます(図3)。ただし、観測できるのは二次元投影された現象。やはり、太陽フレアの研究においても三次元空間で再現したコンピュータシミュレーションが大きな意味を持つことになります(図4)。こうして別々に思える爆発現象を探査機によるその場観測と多波長リモート観測、そしてコンピュータシミュレーションを用いて研究をしています。
研究の魅力
宇宙プラズマ爆発現象は、我々の太陽圏外、銀河系外でも起こっている現象です。その空間スケール、エネルギースケールは広範囲にわたりますが、その基礎となる物理現象は同一であると考えられています。太陽圏内を大きな実験室に見立てて、宇宙全体様々な場所で起こっている爆発現象を研究することができるのです。そして、複数探査機による編隊観測から、多波長高感度望遠鏡による観測、さらには計算速度が飛躍的に向上しているスーパーコンピュータを駆使して最先端の研究をすることができます。一つとして全く同じ爆発現象はありません。それらから見えてくる新しい構造や予想外の現象が私たちを駆り立てます。
今後の展望
太陽フレアはただ爆発しているだけではありません。大規模フレアは高エネルギー放射線をまき散らし、我々の宇宙活動を阻害します。太陽から放出されたプラズマは強力な磁場を伴い地球磁場を襲います。それにより地球磁気嵐が引き起こされ、人工衛星が壊され、地上では大規模電流が発電所を襲い大規模停電を引き起こします。しかし、台風などが予報されるように、宇宙においてもこれらの現象を予報して少しでも影響を小さくする試みが行われています(宇宙天気と呼ばれます)。爆発現象の物理的な解明のみならず、予報精度を上げるためにフレア予測を目指しています。
この研究を志望する方へのメッセージ
多くの研究手段を用いることができるということは、それらを使いこなせるようにならなければいけません。それらは、一朝一夕で身につくものではありません。小さなころから身につけてきた学力の上に築かれた総合的な知識を用いて使いこなせるようになります。今勉強していることが次のステップの礎になることを忘れずに、それらがあって初めてクリエイティブな発想が生まれることを理解してください。特に宇宙分野というのは裾野の広い知識が必要な分野です。どんな知識が新しい世界の扉を開くかわからない世界です。疑問の上に新しい疑問がわき出てくる世界に是非挑戦してみてください。