自己治癒でインフラを長寿命化する
※掲載内容は執筆当時のものです。
微生物の力でコンクリートのひび割れが治る
研究の概要
我々の生活を支える社会インフラを構成するコンクリート構造物は、ひび割れや鉄が錆びることでその機能を果たせなくなります。劣化や損傷を発見したら、すぐに補修できれば良いのですが、インフラ構造物の内部で生じる損傷を見つけることは難しく、補修できたとしても劣化がかなり進んだ後に対症療法的に実施しているのが現状です。このような社会的背景の下、インフラ構造物の損傷?劣化を最小限にとどめ、すみやかに性能を回復し、長寿命化するための自己治癒技術について研究しています。
研究の特色
コンクリートのひび割れを治癒させるだけでなく、鉄筋の腐食を“勝手に”抑制するという、新たな技術を開発しています。鉄の腐食とは、酸素と水を消費しながら鉄が溶けていく現象です。こういった電気化学的反応は、そこに必要な物質がなくなれば進みません。つまりコンクリート内部の酸素が減ると、鉄筋の腐食反応は遅くなります。社会インフラ材料学ではこのような現象に着目し、コンクリート内部の酸素を減らすことができる材料の探索から研究を進めています。
研究の魅力
近年注目しているのは、コンクリート内部で呼吸して酸素を消費し、二酸化炭素を出すことで炭酸カルシウムによってひび割れをふさぐ好気性微生物という存在です。なかでも納豆菌は、アルカリ性が強い環境でも生物代謝(呼吸)を行うことがわかったので、その活用について研究しています。社会インフラという研究フィールドは幅広く、土木×材料×微生物×センシング技術といった融合的な研究課題について、異なる専門分野の研究仲間と連携し、自由な発想で創意工夫しながら新しい価値を創造できることが大学研究の魅力の一つだと思います。
今後の展望
これまでの研究成果を生かして、実用化に必要となる要素技術をさらに深化させ、社会実証?実装に向けて取り組んでいきたいと思っています。特に、様々な環境に建設されるインフラ構造物で微生物が期待通りに活動できるか、いつまでその補修効果は続くのかといった課題は、長期的な曝露試験を通じて検証を重ねる必要があります。また、それらを検知するためのセンシング技術の開発も必要不可欠です。近い将来、実構造物への試験施工により効果を検証する予定ですので、社会実装へのステップアップに繋げられたらと期待しています。
この研究を志望する方へのメッセージ
社会インフラという研究フィールドは幅広く、種々の工学分野の融合的な研究課題が多いのが特徴だと思います。これまでに蓄積された社会インフラを長寿命化し、これから整備していく未来のスマートな社会インフラに皆さんのアイデアを実現してみませんか?