学校と地域社会の連携?協働を通して主権者育成を目指す社会科授業デザイン
※掲載内容は執筆当時のものです。
専門職としての社会科教師のおもしろさの探究
研究の概要
私が、専門としているのは社会科教育学です。社会科教育学は、よい社会科の授業のあり方を考える学問です。皆さんは、これまで社会科の授業をうけてどのような授業がおもしろいと感じましたか。
本学の学生に聞いてみると、多くの学生は「社会問題などについて他者と対話や議論する社会科の授業」がおもしろいと答えます。その理由を聞いてみると、「自分とは違った意見を知ることができてなるほどと思ったから」という意見が多くよせられます。このことから多くの子どもたちは、社会で起こっている問題や課題について他者と対話したり議論したりすることに意味を見出していることがわかります。では、皆さんは同世代以外の人と社会問題について意見交換をしたことはあるでしょうか。意見交換をしたくても、そのような機会はあまりないのが現状ではないでしょうか。
これからの社会で求められるのは、世代や立場を超えてコミュニケーションをとり、問題解決を推し進めることができる人=主権者と言えます。よって、学校教育では、地域社会と連携?協働することによって、多様な世代や立場の人たちと社会問題について対話したり、議論したりする授業をデザインすることが必要になります。
このことをふまえ、私は、学校現場における主権者教育?社会科教育を充実させるための地域社会と学校の連携方法を提案することを目的とした研究に取り組んでいます。
研究の特色
本研究では、主権者教育?社会科教育を充実させる地域社会と学校の連携方法を解明するために、学校関係者や外部の専門家が取り組んでいることを共有できるプラットホーム的役割を担う「シティズンシップラボ」を2020年度に創りました。
小?中?高等学校で取り組まれている地域社会と連携した授業実践を共有し、学習に携わる外部人材と学習者である子どもとの関わりに着目して、授業者がどのような学習課題を設定し、学習を展開すれば子どもの思考を促すことができるのかという点を明らかにしていきました。本研究の特色は、異校種の先生方や学校外のNPOの方々が、社会科教育?主権者教育のあり方について意見交換できる場を創り、深い学びを目指す授業のあり方を考えることができる環境を整備した点にあります。
研究の魅力
地域社会との連携?協働の魅力は、いろんな人たちとつながりができることです。「人とのつながり=ご縁」は人生の財産と言えます。
例えば、私の研究室では、宇和島市立中央公民館と連携した主権者教育プログラムや西予市の復興支援室及び野村小学校と連携した防災教育の授業実践を行っています。授業づくりの過程で、まちづくりなどに関わる多くの方々と知り合いになりました。様々な立場の方々とのつながりの輪が広がっていく中で、その地域にしかない魅力を発見することができます。また、その魅力を教材として活用した授業実践を通して、子どもたちに深い学びを提供することができます。教師も子どもも楽しめる学びが、地域社会と連携?協働を重視した授業づくりなのです。
今後の展望
今後は、本研究の成果をいかした授業モデルを開発するとともに、地域社会の資源を活用できる教員を育成するための大学のカリキュラムのあり方について考えていきたいと思います。そのために、地域社会の人々と触れ合うことを通して、学んだことを教材化する学習機会を充実させるなど、教職志望の学生が「楽しみながら学ぶこと」ができる教員養成のカリキュラムの設計を進めていきたいと考えています。
この研究を志望する方へのメッセージ
数年前に学生ボランティアに関わっている方とお話をした際に、「先生の仕事ってアーティストですね!」と言われました。皆さんは、アーティストという職業に対してどのようなイメージを持っていますか。私は、アーティストは人々を元気にさせたり勇気づけたりするものを生み出す唯一無二のかっこいい専門職というイメージを持っています。教師=アーティストと捉えるならば、教師はデザインした授業を通して子どもたちに主権者として必要な力を育むことができる専門職と言えます。つまり、授業デザインは、教師にしかできない専門職としてのかっこいい営みなのです。プロフェッショナルな教師になりたいと考える方は、ぜひ一緒にこの研究に取り組んでみませんか。