研究の概要

人類にとって最難関の疾患である「がん」。その「がん」は生物が自ら作る疾患でもあります。そしてその成因は様々で、治療法も様々な試みがされています。「がん」はその成因に応じた個別化医療による最大の治療効果を得る方向が模索されている一方で、多くの共通した事象をひもとき、病態を理解して、その共通部分を叩く治療が模索されています。私達の研究室では、比較的成因がはっきりしている肝細胞がんに焦点を当て、発がん、がん進展のメカニズムを解析していくなかで、protein kinase R(PKR)という、様々な細胞に含まれている感染防御蛋白が、まちがって過剰に発現することで、「がん」を促進することを見出しました。「がん」のしたたかさと、一筋縄では解決できない、制御の難しさを理解するとともに、患者さんの治療にどのように貢献するかを、臨床の場で実現しようとしています。

研究の特色

多くの「がん」が、原因がよくわかっていないのに対して、肝臓にできる肝細胞がんは、肝炎ウイルスにより高率に発症することが知られており、比較的原因がはっきりしています。当教室では、肝炎ウイルスの一つである「C型肝炎ウイルス(HCV)」について研究を進め、HCVを効果的に押さえ、排除できる抗ウイルス薬の治療効果に貢献する生体内蛋白としてPKRに注目してきました。PKRは図1のように、HCVのようなRNAウイルスが増殖する過程で1本鎖が2本鎖になるところをセンサーとして感知し、下流のRNA翻訳に関わるeIF2αをリン酸化させることで、その機能を抑制し、ウイルス増殖を制御します。その作用から、PKRは抗ウイルス効果によって、肝細胞がんにおいても、がん抑制的に作用することを想定しました。つまり、肝細胞がんの組織ではPKRの発現が低下しているのではないかと期待して、患者さんから得られた検体を用いて肝細胞がんのPKRの発現を、がんでない周囲の組織と比較しました。

しかし、その結果は、予想と全く逆で、全ての患者さんにおいて、がん部において非がん部よりも発現が高い結果でした(図2)1)。医学では頭で考える予想に反する事象が時折見られます。しかし、冷静に考えると、患者さんの検体から得られる事実が、まさに真実なのです。我々は冷静に考え直しました。そして、HCVの肝臓での感染が持続する中でHCV増殖を抑制するためにPKRの発現が増加し続け、過剰に発現したところで、むしろPKRは善玉から悪玉に転じて、肝細胞がんを促進するように働くのではないかと考えました2)。そして、さらなる研究でその考えを証明するエビデンスを得られ(図3)、現在、世界に発信しています。今では、我々の考えをサポートする様々なエビデンスが世界からも発信されており、さらに、肝細胞がん3,4)のみならず、膵臓がん5)、大腸がん6)でもPKRのがん促進作用があることを報告しています。

研究の魅力

がんにおけるPKRの機序を解明する中で、PKRはがんの生命線である糖代謝に関わるkey moleculeであることがわかりました。また、患者さんを診療している臨床医学を実践している教室ならではの強みである、患者さんの検査データ、同意をいただいて得られた検体を用いた研究により、真実が得られます。当教室では、研究モデルから得られたデータを常に臨床で証明することを大切と考え、推論が正しいことを証明し確認しながら、研究をさらなる次のステップに向かって進めています。

そして学内でも多くの国内外の学会、論文の発表を積極的に行っており、私達と同じくPKRの魅力を感じる国内、海外の研究者とネットワークを形成しながら、グローバルな研究を目指しています。

愛媛県からグローバルな展開へ、まさにGlobal + Localization = Glocalizationをモットーに研究の魅力を発信しています。

今後の展望

PKRは人体の多くの臓器に広く存在している蛋白ですが、がん細胞における過剰な発現が、がんの増殖を助長すると考えられます。一方で、PKR欠損動物でも生存に問題ないことを見出しており、過剰発現を制御する阻害薬が、がんの発育と進展を抑制できる可能性があります。現在、モデル動物での研究を進めるとともに、PKR発現を抑制できる阻害薬の開発と、研究基づく創薬の開発を目指しています。そしてその薬物が、肝細胞がんのみならず、膵臓がん、大腸がんなど、広く全身のがんを制御しうる薬物として臨床応用できるのではないかと期待しています。

この研究を志望する方へのメッセージ

がんは頻度が多く、治療が難しい病気です。特に消化器のがんで死亡される方は、がん全体の半数以上にのぼり、その治療法の開発は、世界に多大な貢献ができます。これからの医学はがんをどう理解して、どう治療に結びつけるかが最大の課題とも言えます。病態の研究から得られたエビデンスを、患者さんを診療して得られるデータで証明していく、その中に大きな発見があります。ぜひ、足球即时比分_365体育直播¥球探网で、当教室で、その研究をしてみませんか。

文献

  1. Hiasa Y, Kamegaya Y, Chung RT, et al. Am J Gastroenterol. 2003 Nov;98(11):2528-34.
  2. Watanabe T, Imamura T, Hiasa Y, et al. Cancer Sci. 2018 Apr;109(4):919-925.
  3. Watanabe T, Hiasa Y, Tokumoto Y, et al. PLoS One. 2013 Jul 2;8(7):e67750.
  4. Okujima Y, Watanabe T, Hiasa Y, et al. Sci Rep. 2024 Nov 13;14(1):27768.
  5. Numata Y, Koizumi M, Hiasa Y, et al. Sci Rep. 2025 Jul 10;15(1):24966.
  6. Hashimoto Y, Tokumoto Y, Hiasa Y, et al. Sci Rep. 2024 Apr 19;14(1):9029.