空中超音波、レーザ超音波を用いた非接触非破壊検査

研究の概要

我が国には高速道路や橋梁といった多数のインフラ構造物が多数存在しています。このような構造物の多くは高度経済成長期である1970年代よりも前に建造されています。そのため老朽化を原因とした事故の発生が懸念されています。このような事故を未然に防ぐためには劣化箇所を適宜検出し、適切に補修する必要があります。このとき、検査対象を破壊したのでは意味がなく、対象を壊さずに(すなわち非破壊での)検査を実現する必要があります。上記のように、検査対象を破壊せずに検査を行う方法を「非破壊検査」といいます。

私はこの非破壊検査の手法として、検査対象に「触らずに」検査を実現できる「非接触非破壊検査」について、空中超音波やレーザ超音波を使った研究を進めています。

研究の特色

本研究の特色として、空中から検査対象に発生させた音波に対して信号処理を適用することでより高精度な非破壊検査を実現している点があります。図1は空中超音波を用いてモルタル内に超音波を発生させ、パルス圧縮という信号処理を適用することで高精度な非破壊検査を実現している様子を示しています。図1(b)に示す範囲のモルタル内を伝わる音波の伝搬を可視化した結果が図1(c)、図1(d)です。図1(c)は伝搬する音波をそのまま可視化しており、複数の波が伝搬している様子が見て取れます。一方で図1(d)では信号処理の適用によって伝搬する音波が1波となり、極めて高精度な可視化像を取得することができています。

その他にも、図2に示すようにレーザを用いて超音波を発生させ、検査対象から漏洩する空中超音波を計測することで、完全に非接触での非破壊検査を実現する研究も行っています。

図2:レーザ送信、空中受信による完全非接触な非破壊検査

研究の魅力

本研究の魅力はなんといっても「非接触」であるという点です。かつて、Lord RayleighはThe Theory of Soundにおいて「On account of the great difference of densities reflection is usually nearly total at the boundary between air and any solid or liquid matter.」と記し、空中超音波を用いた非接触での非破壊検査の実現を否定していました。この不可能と言われた方法を実現できるところにこの研究のおもしろさがあります。

また、非破壊検査に用いるような空中超音波音源はほとんど市販されていないことから、実験に用いる超音波音源といったハードウェアから信号処理を行うソフトウェアまで自分達で開発を行なう必要がある点も本研究の魅力です。

今後の展望

マイクロフォンアレイを用いた
完全非接触非破壊検査

今後(現在)は完全非接触での非破壊検査の実現を目指しています。例えばレーザ、空中超音波を融合した手法を研究していますが、レーザを用いて発生させた超音波はその強度が弱く計測が難しいです。そこで、より高精度な検査を実現するために空中超音波センサにマイクロフォンアレイを用いる研究を進めていきます。

この研究を志望する方へのメッセージ

非破壊検査は社会基盤を維持し、私達の豊かな生活を持続させるために必要となる、極めて社会と結びついた重要な研究です。その実現のためには、土木工学、機械工学、電気工学など多岐にわたる知識が必要となることから難しさがありますが、そこにやりがいがあります。

みなさんも幅広い知識を用いて社会に貢献する研究をしてみませんか?