少数派が輝く社会の実現
※掲載内容は執筆当時のものです。
自閉スペクトラム症研究を通して「当たり前」を疑う
研究の概要
自閉スペクトラム症(ASD)を知っていますか?社会的コミュニケーションや対人的相互反応における困難さ、行動?興味?活動の限定された反復的な様式を特徴とする神経発達症の一つです。
私は、自閉スペクトラム症に関する研究に取り組んでいます。現在は、主に自閉スペクトラム症のお子さんを対象として、コミュニケーションに関する理論的な研究と、実際に支援を行う実践研究を行っています。
自閉スペクトラム症では、言葉を文字通りに理解することが多く、言葉の裏の意味や行間を理解することが困難であるとされています。理論的な研究では、自閉スペクトラム症のお子さんの会話の特徴や、他者の意図を理解する際の手掛かりなどについて、場面を設定して行動を観察しながら調査をしています。実践研究では、人の行動の仕組みを明らかにする学問?応用行動分析学(ABA)に基づいて、お子さんに対する直接的な支援、家族や教員など支援者に対する支援、学校と連携したスクールワイドPBS(積極的行動支援)という実践などを行っています。
研究の特色
これらの研究を行う上では、人と関わることが基本となります。私の研究室では、学校や地域の施設、離島やへき地に出向いて、現場で活動する機会を大切にしています。理論的な研究を行う際には、お子さんやご家族の協力を得て、調査に参加していただきます。貴重な時間を割いて研究に協力していただくので、少しでも何かを還元できるように心掛けています。実践研究では、学校やご家庭で日常的に実現可能な支援方法を実践?提案できるように、また、自閉スペクトラム症のお子さんとご家族、周囲の人たちの生活の質が向上するように、理論に基づいた実践を重視しています。
研究の魅力
研究の魅力は、何と言っても、人が相手であるということです。理論的な研究では、コミュニケーションや他者の意図を理解することなど、普段あまり意識せずに行っていることに向き合い、その成り立ちをじっくりと考えることができます。実践研究では、お子さんの変化を見られることが大きな喜びです。また、支援者に対する研究では、伝えた支援方法がそれぞれの場所で実践され、次々と輪が広がっていくことにもやりがいを感じます。
自閉スペクトラム症の研究をしている仲間同士で共同研究を行うこともあります。オンラインでの合同ゼミを実施するほか、学会などの際に情報交換会(という名の飲み会)を行います。多様な意見に触れることで、新たな研究のヒントを得られ、人のつながりの大切さを感じています。
今後の展望
近年では、自閉スペクトラム症の特性を障害や欠陥と捉えるのではなく、脳や神経の特性が少数派であると捉える考え方が広がりつつあります。神経多様性(ニューロダイバーシティ)という考え方です。
また、障害の「社会モデル」という考え方も広がっています。これは、障害者が日常生活又は社会生活で受ける様々な制限は、社会における様々な障壁と相対することによって生じるものという考え方です(足球即时比分_365体育直播¥球探网5年度版障害者白書,内閣府)。つまり、障害や困難さの原因は個人の心身機能にあるのではなく、障害のない人?多数派を前提に作られた社会の仕組みに原因があり、社会に障壁があると捉えるものです。
私たちの研究の大きな目標は、社会的には少数派である自閉スペクトラム症の人たちにとって、より伝わりやすいコミュニケーションの方法や、過ごしやすい環境、力を発揮しやすい環境について明らかにすることです。そうして、少数派が輝くことのできる社会、最終的には多数派?少数派という垣根すらなくなる社会が実現できる日を目指しています。