鉱物から地球内部の環境?システムを考える

研究の概要

地球は鉱物でできています。鉱物が集まると岩石となり、その岩石から山々や大陸が構成されています。鉱物は長い時間をかけて地球の中をめぐり、その時々で一番安定な鉱物の組み合わせや状態へと変化しながら旅を続けています。地球において私たちが実際に観察することができる場所や時間はほんの僅かです。しかし、あらゆる場所の鉱物を研究し、どんな旅を送ってきたかを知ることで地球内部の環境やシステムを知ることができます。私は特に流体との反応でできる鉱物に着目しており、中でも蛇紋石と呼ばれる鉱物を研究しています。蛇紋石から主に構成される蛇紋岩はマントルを構成するかんらん岩が熱水と反応してできるため、沈み込み帯や海嶺など地球上に広く分布しています。また、蛇紋石は多様な結晶構造を持つユニークな鉱物なのですが、各種類の形成条件は明らかになっていません。蛇紋岩や蛇紋石の性質を解明することで直接見ることのできない地球内部の流体と鉱物の反応やサイクルについて解明しようとしています。

研究の特色

野外調査に行き現地で岩石や鉱物を観察し、持ち帰った試料を研究室にて分析します。主に結晶構造や化学組成、組織や共存関係を明らかにし、どのような形成過程?形成環境にてできたのかを解明することで、その産地全体での地質イベントを推定するのです。鉱物学の中でも私が専門とする記載鉱物学は自然を相手にしているため、事前に完璧な研究計画を立てることはできません。どこを観察して、どこを持ち帰るのか、そしてその試料のどこにどんな分析するのか、入念な下調べとその場での適切な判断が必要となります。特に野外調査は日没などの時間制限があるため時間との戦いです。また、天然の試料以外にも合成実験を行いどんな条件でどのような鉱物が形成されるか検討することもあります。

研究の魅力

鉱物と聞くと見た目の綺麗さばかりが取り上げられがちですが、鉱物が持つ場所や時間の記録も特色の一つです。私の研究対象である流体との反応でできる鉱物は多段階で不均一な反応が多いため、一つの試料に多くの鉱物が入っていたり複雑な組織をしていることが多いです。野外調査や分析から各地点や試料の特徴を明らかにし、そのヒントをもとに産地全体について説明できる共通のストーリーを見つけた時の、まるでミステリーを解いた時のような達成感が一番の魅力ではないかと思います。さらに先人達が調査した他の産地や実験での結果等と比較検討し、より一般的な性質や産状について挑んでいくのですが、自分のデータから過去の先行研究を含めて説明できそうな仮説を思いついた時は非常にワクワクします。

今後の展望

蛇紋岩は地球上に広く分布していますが、かなりの多様性が見られ、それらは形成時の環境や地質背景の違いを反映していると思われます。蛇紋岩で最も多く含まれている鉱物は当然蛇紋石なのですが、分析が難しいこともあり詳細な結晶構造と産状との関係性は実はよくわかっていません。国内外の様々な産地の蛇紋岩について研究し含まれる蛇紋石の種類を調べたり、合成実験を行うことで蛇紋石の多様性とその形成条件について解明したいと思います。

この研究を志望する方へのメッセージ

研究を通して見た目だけではない鉱物の魅力を感じてほしいです。地球の構造やシステム、岩石や鉱物の分類や形成場など知識を得ると世界の見え方が変わってきます。今まで見ていたものがどうしてそうなっているのか理解できるようになるのはとても楽しいです。授業でも独学でも知識を身に着けるのは根気と努力が必要となりますが、是非最も身近な研究テーマである地球について、鉱物について学んで新しい世界を見てみてください。