日本の金型産業の競争構造に関する研究
※掲載内容は執筆当時のものです。
金型はものづくりの技術水準を規定するマザーツール
私の専門分野は中小企業論であり、大学では金型を製造する企業について研究しています。皆さんは、金型と呼ばれるものをご存知でしょうか。金型は、直接私たちの目に触れる機会が少なく、聞き慣れない言葉かもしれません。しかし、金型は、自動車、家電製品、OA機器、日用雑貨などを作るために欠かすことができないものです。
例えば、たい焼きを想像してみましょう。お店の方が一つひとつ生地からたい焼きの形を作っていたのでは、たい焼き1個当たりに要する費用や時間が掛かり過ぎてしまい、店舗経営が成り立ちません。それに対し、店員さんが生地をたい焼きの型に流し込めば、一度に大量のたい焼きが焼き上がります。結果として、私たちは、たい焼きを安く、美味しく食べることができるのです。
このように、身近なものを例えにすると、金型のイメージやその重要性が理解し易いと思います。ちなみに、自動車や家電製品で使用される部品の品質の70%から90%は、金型の品質によって決定されるとも言われています。日本では、金型を製造している企業の大半が中小企業です。私は、そのようなものづくりの基盤となる金型を製造する企業がなぜ中小規模に留まるのか、またどのように経営を行っていけばよいのかを研究しています。
研究の特色
現在、関心を持って取り組んでいるテーマは、「国内の金型産業は技術力が高いと言われているにもかかわらず、なぜ金型製造企業が儲からないのか」です。2000年以降、金型産業を国際的に比較する研究が盛んに行われてきました。そして、中国、台湾、韓国、シンガポール、インド、マレーシア、タイ、フィリピンなどのアジア諸国との比較から、日本の金型産業は高度な技術力を保持することが実証されてきました。
ところが、今日の国内金型製造企業は、苦境に立たされているものが多い状況です。一例を挙げれば、自動車向けプレス用金型においてビッグ3と称された、オギハラ、富士テクニカ、宮津製作所の再建です。業界第一位であるオギハラは、2009年3月にタイの自動車部品大手タイ?サミットの傘下となり、2010年4月に中国の主要電池?自動車メーカーであるBYDに館林工場を手渡しました。また、第2位の富士テクニカと第3位の宮津製作所は、2010年9月に政府主導の下で統合に合意し、企業再生支援機構から53億円の融資を受けました。いずれの企業も、創業から50年以上続いた日本を代表する金型製造企業であり、世界有数の優れた技術力を持つと言われていました。
このようなことからも、依然として高い技術力を維持すると言われる金型産業とは対照的に、それを構成する金型製造企業がなぜ高い経営成果を上げることが困難なのでしょうか。上記の矛盾が如何なる理由から生じているのか、そして金型製造企業はどのようにこの苦境を乗り越えればよいのかを、「競争」というキーワードから考えています。より具体的に言うと、私の研究は、金型製造企業が金型産業においてどのような位置付けにあり、その中で如何に技術的な競争を行っているのかを明らかにしようとしている点に特色があります。
研究の魅力
金型製造企業は多様な形態で存在しています。ただし、そのような形態を把握するためには、利用できる資料に関する2つの制約があると考えています。第1は、金型産業において上場企業が少ないことです。それにより、研究者が得られる企業情報は、少数の企業に限定されてしまう可能性があります。第2は、様々な金型製造企業が混在していることです。金型の型種は、プレス、鍛造、プラスチック、ダイカスト、鋳造、ガラス、ゴム、粉末冶金など、成形加工する素材やその手法によって異なります。さらに、プレス加工に使用する金型のみを取り上げても、微細な半導体向けの金型や巨大な自動車向けの金型を製造する企業が含まれています。
上記の制約を踏まえ、私は複雑な金型製造企業を検討するため、企業の膨大な財務データを扱う帝国データバンクと共同研究を行うことや、金型の製造現場に赴いて経営者の方の生の声を伺うフィールドワークを精力的に実施しています。それらを通じて、これまでの研究で明らかにされていない事実を発見し、難解な金型製造企業を少しづつ紐解いていくことに楽しさを感じます。特に、疑問に思うことを直接お聞きするフィールドワークは、いつも新たな驚きがあり、この研究の醍醐味だと考えています。
研究の展望
リーマンショック以降、ものづくりの拠点が急速に東アジアへとシフトするようになり、国内の金型製造企業の数は年々減少しています。その中で、これからの日本の金型製造企業は、アジア諸国の金型製造企業とどのように競争し、生き残っていけばよいのでしょうか。さらに、政府や地方自治体は、如何に国内の金型製造企業を支援していくことが望ましいのでしょうか。現実の金型製造企業の実態に即した研究成果を積み上げ、それらの答えを地道に模索していく必要があると考えています。
この研究を志望する方へ
金型を製造する企業を含む企業一般を分析するためには、生産の知識、会計の知識、労務の知識、情報システムの知識、マーケティングの知識など経営に関する幅広い知識が求められます。さらに、大学院では、自分の興味がある産業や企業に焦点を当て、特定の分析視角からより深く考察していかなければなりません。まずは、足球即时比分_365体育直播¥球探网に入学し、私と一緒に中小企業のことを考えていきましょう。