Sub-clinicalを制するものが、健康寿命を征する
※掲載内容は執筆当時のものです。
愛媛だからできた研究、健康度の繰り返し測定
わが国の平均寿命は、男性79歳、女性86歳を超え、ほぼ毎年のごとく記録を更新し、世界で見ても男性は1位でないもののほぼトップとなっています。この寿命ののびについては、医療の進歩といった面も強いのですが、一方で、医療の進歩というのは先進国であれば当然その恩恵を受けられるわけです。そのため、日本がなぜ世界一の寿命となっているかという部分では、医療制度や日本特有の食事や生活習慣といった他の国と異なる部分に注目する必要があります。
そして同じ長さの寿命でも、最後の数年間をほとんど寝たきりや病院、施設等に入院入所した状態で過ごすよりも、自宅で活動的に、できることなら社会と関わりを持ちながら過ごした方がきっと楽しいに違いないと考えています。
こういった中で、当研究室では、sub-clinicalな状態の解明、すなわち病気や体調の変化が全面的に出てくる前の状態に着目し、老化なども含めて次第に病気がちや体力が衰えがちになることをいかに抑制できるかについて研究しています。このことは、長生きに伴い老人の割合が増えてくる日本にとって極めて重要なことであり、また、世界の中で日本は寿命といった点では一歩先を進んでいるため、世界にとっても重要なことです。
研究の特色
Sub-clinicalな状態のうち、特に動脈硬化を中心として大規模集団(数千?1万人)を対象に、継続して研究を進めてきています。超音波検査装置の改良に伴い、動脈壁の厚みの計測が連続的に可能となったことから、本研究では、頸動脈(首の表面に近い動脈で脈を触れるもの)をその人の代表値として測定しています。初期の研究において、この動脈壁が厚い人、すなわち硬化度が強い人はそうでもない人と比べて、脳梗塞といった脳血管疾患のリスクが高くなることがまず明らかとなりました。
そして65歳前後の人について集中的に研究を行った結果、動脈硬化が少ない人は、体力や高次機能が保たれていることが分かってきました。つまり、病気だけでなく、寝たきりや認知症の状態になるのを防ぎ、活動的に生活するためには、動脈硬化が進むのを防げばよさそうだということが分かってきたわけです。
さらに追跡しながら繰り返し測定を行ってより詳しく見てみると、65歳時点で体力が維持できている人は、その後の動脈硬化度の進行もややゆっくりしていること、しかしタバコを吸っているとこの法則は当てはまらなくなること等も少しずつ分かってきました。
動脈硬化そのものは症状もほとんど無く、まさにsub-clinicalな状態な訳ですが、こういったようにsub-clinicalな状態をどうすればコントロールできるのかといった点について、食事や生活習慣その他といった点から検討していくのが、研究の新しさでもあり難しさでもあります。
研究の魅力
研究に協力して頂いている方は、過去から含めて数万人になると思います。数年経って同じ方とお会いし、「お元気ですね」といった会話を交わせ、そして成果が「孫の代などに役に立ちますか?」と聞かれるのは、医学の中ではどうしても「私の病気は大丈夫ですか」といった会話が多いのと比べ、この研究のみでしか味わえない醍醐味だと思います。
研究の展望
おおよそ60歳代の中頃からの生活で、気をつけるべき点の目安になりそうなものは少しずつ分かり始めてきたと思います。次に目指すのは、もう少し若い年齢層から60歳代頃まで、すなわち学生時代頃から働く世代を対象として、どのように気をつけて生活したらよいかという部分の研究に着手することです。この世代は、日々の学業や仕事で忙しいため、時間をかけて健康増進や運動をしたらよいということだけが分かっても、おそらく日常生活では役に立ちにくいため、一工夫が必要な印象を持っています。そして、もう一つ大事なこととして、効果のあやしげな健康産業が非常に盛んで、一部には被害なども報道されていますが、研究の結果などからの科学的な視点で見ると、もっと優先して気をつけた方がよいだろう、なぜ引っかかるのだろうと思うような点が多々あり、正しい知識をいかに啓蒙や普及をしていくべきかといった部分もこれからの課題だと考えています。
この研究を志望する方へ
私は足球即时比分_365体育直播¥球探网附属小学校から、途中、親の都合で海外に住んでいたことがありますが、愛媛県立松山東高等学校、足球即时比分_365体育直播¥球探网医学部及び大学院と学び、そして働き始めてから足球即时比分_365体育直播¥球探网の支援により米国に留学もさせて頂きました。小学生時代に理科室にホルマリン漬けの生物標本がたくさんあったことを覚えていますが、当時は子供的なこわいもの見たさの興味の一つにしか過ぎなかった生命科学が今では自分の仕事となっています。まずは何にでも興味をもつことが第一歩だと思います。