生活習慣病は脳習慣病?
※掲載内容は執筆当時のものです。
パターンに着目した慢性病への新規アプローチ
皆さん、生活習慣病という名前は聞いたことありますか?最近ではメタボリックシンドロームと言った方がピンとくるかもしれませんね。生活習慣病には高血圧や糖尿病、肥満、高コレステロール血症などが含まれますが、これらの病気に関係する人は予備軍を含めてなんと糖尿病で2000万人、高血圧で5500万人、メタボリックシンドロームで2000万人いると言われます。年をとった人では、生活習慣病を持たない人を見つける方が大変な状態です。
さて、生活習慣病は、病気と名がついても実際に身体に不調を訴えることはほとんどありません。しかし、静かに血管をむしばむ原因になります。そして気がつくと心筋梗塞や脳梗塞、腎不全といった大変怖い病気を引き起こすのです。
これまでの医療は、起こってしまった病気を治すことに主眼がありました。しかし、起こってしまってからでは痛んだ臓器を元に戻す治療が難しいことから、病気を“起こさないための医療”に重点を置く方針に転換してきています。私たちのグループは主に高血圧に焦点を置きつつ、こうした生活習慣病の予防や進行を防ぐ新しいアプローチができないかを考えています。
研究の特色
生活習慣病は名前の通り日常生活の中でつくられる病気です。文字通り“生活習慣を改善すればいい”わけですが、食事や運動、生活環境やストレスなどが複雑に関係するため、“どうにもできないなあ”という気持ちもちょっとばかり持ったりします。でも何か打つ手があるはずです。 さて、みなさん若い方は柔軟性を持ち様々に変化できると考えているかと思います。しかし、変化することは自分の身を未知の危険に晒すことでもあり、生命維持には不利に働きます。また、様々な事柄に同時に注意を向けることも注意力が疎かになり大変危険です。そのため動物はある種のパターンを作り出すことで危険を回避したり、無駄な労力を減らして周囲に気をつける余裕を手にしていると考えられます。皆さんも結構同じ思考?行動パターンをしていると思いますよ。こうしたパターンは生きるためには不可欠なことなのです。だから、嗜好性や身体活動性などの“日常性”はパターン化してしまう仕組みがあるのではないか?それが脳の中でプログラムされたものであるとしたら、脳習慣を変えなければ生活習慣病は克服できないと考えます。このような脳から生活習慣病を考えるという方向を我々は探っています。現在は、生活習慣病に密接に関係するレニン?アンジオテンシン系という血圧を調節するホルモンと脳についての研究を行っていますが、広く脳と生活習慣病との関連を探る研究をしていきたいと考えています。
研究の魅力
ダイエットに関心を持つ人がこれだけ多いにも関わらず、思ったように体重コントロールできる方法がみつからないのは何故でしょうか?また血圧が高くなるとわかっていても塩辛いものをやめられないのは何故でしょうか?あるいは運動しようと思っても身体が動かないのは何故でしょうか?日常で感じる疑問は多々あると思います。こうした疑問に対する明確な答えはわかっていません。日常の疑問が自分の実験で解決するとしたらそれは大きな自信に繋がります。素朴な疑問で大いに結構ですから、疑問を自分で解決する楽しみが研究の魅力かと思います。
研究の展望
例えば、いつもとは違う側の手で歯を磨いてみてください。それだけで、身体の一部や思考回路がいつもとは違う感じになったような気がしませんか?あるいは大きく吸えるだけ息を吸って、その後ゆっくり吐いてみてください。なんだかちょっと違った感じがしませんか?こうした日常とは違うパターンをちょっと破ってみることで何かが活性化されます。その何かが生活習慣病を克服するヒントではないかと思います。漠然とした目標ではありますが、こうした身体の不思議に焦点を当てて、今後も研究を進めていきたいと思います。
この研究を志望する方へ
実際に臨床で患者さんに接し、生活習慣病の是正をお話しすることは大変心苦しいものです。食事を普通に摂り、いつもと変わりない生活を送ること。生活習慣病はそこにメスをいれないといけない訳です。変わることこそ苦痛であることが我ながら分かっている故にそう思います。生活をパターンとして考えそのパターンを苦も無く改善する方法を見つけることができればと思います。“パターン化したくない”、“日常に埋もれたくない”と思っている方、ぜひ興味を持っていただければ幸いです。