人間の嗅覚?味覚を超える終わりのない化学センサの進化
※掲載内容は執筆当時のものです。
生活を支える技術
化石燃料の利用による産業革命以来、生活環境は悪化し続けており、汚染は、局部から、地域、五大陸、地球規模に拡大しています。石油化学の進展は、通常大気に含まれていない化学物質による汚染を生じています。人間は、長い歴史の中で、嗅覚?味覚といった化学物質の認知機能が進化(退化?)してきました。これらの機能?器官で認知できない膨大な種類の化学物質による汚染の中で生活しているのが現状です。生活環境を守るためには、これらの化学物質を常時計測する事が必要であります。また、汚染物質をださないエネルギーの確保が必要です。 以上の観点から、人間の嗅覚?味覚では認知できない低濃度の化学汚染物質を検知できる携帯型の化学センサの開発とクリーンエネルギーである水素を用いた燃料電池の構築に必要な材料の開発を主におこなっています。
研究の特色
「化学センサ」は、日本が発祥の地であり、1960年代の後半から、ガス検知素子として進化し続けています。1970年代、ガス洩れ警報機としてガスセンサが市場に出回り、空調機器の発展とともに湿度センサも実用化されました。また、自動車用酸素センサが、溶鉱炉用酸素センサとともに普及しております。特定環境から一般環境へと、ガスセンサへの期待が高まりかなり実用化が進んでいます。現在でも、我が国における大気ガスセンサ、バイオセンサの分野は世界に対して先導的であります。センサが対象としている環境は、年々、複雑化、複合化、低濃度化の状況にあり、分子10億個に含まれる一個の分子を計測?識別する性能が求められています。人類が地球上または宇宙空間に存続する限り、進化していかなければならない科学技術の一つであります。
研究の魅力
自然科学における研究は、大きく分類すると、自然法則を知る分野、自然法則を利用する分野に大別できます。化学センサの歴史は、自然法則を知る分野と自然法則を利用する分野の恊働をベースに流れています。いわゆる科学と工学の一体化を基本とし、生活環境の保全と生命の維持といった人類共通の目的を常に意識しています。ひとつのセンサを開発するためには、化学、物理、生物の学問領域を総合的に理解しなければなりません。元素、分子、気体、液体、固体、化学反応、物質変換、電子移動、酸化?還元、物理的変換、等々多様な現象の理解と目的にあった物質、適用可能な自然法則等の選択が必要です。時には、自然法則を見極めつつの展開も必要です。特定の専門分野で発想しても、本当に最適化されているのかは不確定であります。センサの研究は、人間がかってに分類した特定の分野に制限された発想?技術の範囲でおこなうとほとんどの場合、成功しません。目的を明確にし、目的達成のために有効な知識と材料と原理を幅広く精査し行動する必要があります。それでも、予期せぬ環境によりセンサの安定性、確実性を確保できない場合が多々あります。科学と工学のピストンです。研究者のベクトルの多方向化と空間的?知識分野の拡大を常におこなわなければ、設定された目標には届かないのです。目標が明確で飽くなき探究心と行動力を与えてくれる研究テーマと思っています。
研究の展望
開発した湿度センサは、既に空調機などに組み込まれており、普及しています。人生のピークを過ぎた時点では、今まで進めてきた研究成果を形にすることがまずであります。生活環境を考えると、今後、オゾン、揮発性有機化合物、環境ホルモン、粉塵等々、展開していかなければならない課題は数多く残されており、科学技術の進展とともに新たな化学センサが必要になります。人生50年と言われた時代と違い人生80年の昨今でありますが、人類の歴史からみると個人の人生は一秒以下です。ただ、人間は考え、記憶し、後世に知と技と継承する手段を有しています。次世代を担う若者に、継承に値する情報と知と技をいくらかでも伝えることができたらと思っています。
この研究を志望する方へ
研究は、時代時代にあわせて進化をします。進化する限りその過程で未知の事象が観測されます。この研究も例外ではありません、関連技術の進展は常にその周辺の進展に大きなエネルギーを与えます。幅広い知識と洞察力が必要です。「At anytime, with my best」「真実は人間の口からはでてこない。現象こそが真実に忠実である」尊敬する人:レオナルドダビンチ