モンゴル高原の古代鉄生産の解明
※掲載内容は執筆当時のものです。
草原や砂漠でのフィールドワーク
私の研究は、発掘調査などの考古学的な研究手法を中心に用いて、「鉄の存在が文化や社会にどのような影響を与えたか」を明らかにすることを目的としています。その中でも、鉄の生産技術や鉄の流通などをキーワードとして研究を進めています。学生時代は、北海道アイヌや江戸遺跡の研究なども行っていましたが、現在の主なフィールドはモンゴル国です。モンゴルでは、匈奴の製鉄遺跡やチンギス?カンの宮殿址の発掘調査を行っています。
研究の特色
モンゴルは、かつて匈奴やモンゴル族などの遊牧民族が興亡し、ユーラシアの歴史に大きな影響を与えた地域です。これまでも鉄が民族や国家に与えた影響について数多く議論されてきましたが、具体的な資料に即した議論は少なかったと言わざるを得ません。
また、西アジアに端を発し、東アジアそして日本へと伝わる銅や鉄の歴史を考える上でも重要な地域ですが、研究蓄積の少なさから「ミッシングリンク」となっていました。
そこで、フィールド調査に重点を置き、モンゴルの研究者と共同で調査を行い、具体的な資料(遺跡から出土した鉄)から新たな研究を展開しています。一部の資料はモンゴル政府の許可を得た上で日本に持ち帰り、自然科学的な分析を行うことで、産地推定や技術復元などを行っています。最近では、ドイツのボン大学やアメリカのイェール大学の調査チームなどとお互いの長所を活かしながら、共同で研究を行っています。
研究の魅力
考古学の魅力は、自らの手で地域の歴史や文化を文字通り“掘り起こす”ことにあります。そして物言わぬ“モノ(遺跡や遺物)”に歴史を語らせる面白さもあります。
現在、発掘調査を行っているホスティン?ボラグ遺跡はモンゴルで初めての発見された製鉄遺跡です。これまでの研究によって、東アジア地域最初の遊牧国家である匈奴の鉄生産の実態が解明されつつあります。この研究成果は、遊牧生活を送る牧歌的な遊牧民のイメージや農耕国家の歴史書に「野蛮?残虐」と記載された遊牧国家のイメージの変換を迫る“新発見”でした。
研究の展望
隣国のロシア連邦、中華人民共和国、カザフスタンなどに視野を広げて研究を推進することで、ステップ地帯を伝わった金属文化の歴史や、鉄が非農耕民族に与えた影響を明らかにすることができると考えています。
また、私たちの研究を契機に、モンゴル国内でも新たな製鉄遺跡が次々と発見されてきています。研究を蓄積することで、モンゴルにおける人と鉄の歴史を叙述することも可能になると考えています。現在、モンゴルは鉱工業を主産業と位置付け、急速な経済発展を遂げています。それに伴い、遊牧と定住の狭間で揺れ動くモンゴルでは、様々な社会的?環境的な問題が生じています。そのような問題に対して、モンゴル遊牧民と鉄との関わりを明らかにしていくことで、考古学の立場から有意義な指針を与えることができると考えています。
この研究を志望する方へ
考古学は、過去の人間が残した“モノ”を読み解く学問です。そして、発掘調査という他の学問にはない考古学独自の研究手法があります。そのため、考古学では、大学の外でのフィールドワークと大学の中での研究の両方をすることになります。屋外の調査はそれなりに大変ですが、普段の生活では味わうことのできない貴重な体験を積むことができます。また、それぞれの土地では現地の方々と交流を深めながら、共同で調査を行うことになります。そのため、学力だけではなく、様々な力が必要となります。そして、社会に出たときに必要となる様々な能力を身に付けることができます。だからこそ面白い学問分野だと思います。
この研究活動は、教員の実績ハイライトにも掲載されています。
教員の実績ハイライトとは、教員の「教育活動」「研究活動」「社会的貢献」「管理?運営」ごとに、特色ある成果や業績を精選?抽出したもので、学内のみならず学外にも広く紹介することとしています。