人々の「筋力向上活動」の促進を目指した行動科学的研究
※掲載内容は執筆当時のものです。
全国民の生活の一部に筋トレを!!
筋トレってスポーツ選手だけが行うハードなトレーニングっていうイメージでしょうか?決してそんなことはありません。すべての人々に必要不可欠な運動といっても過言ではありません。しかし、残念ながら定期的に筋トレを行っている成人は一割にも満たない現状にあります。
ご存知の通り、私たちが身体を動かすことができるのは筋肉のおかげです。この筋肉は、高校生ぐらいの時期に著しく発達し、20~30歳でピークを迎えたあと、加齢に伴いその後は減っていきます。身体の部位によって減少の程度は様々ですが、太ももの筋肉は20歳の時を100%とすると、70歳の頃には大体50%程度まで減ってしまいます。20歳の時に両脚で行っていた日常生活を70歳では片足で行わなければならなくなるイメージです。このような筋肉の減少は日常生活に支障をきたすに留まらず、寝たきりや早世にもつながります。
現代社会は便利になりすぎて、身体を動かす機会がかなり減少しています。そのため、あらゆる世代の筋肉量が昔と比べて減少しています。特に若い人ほど、筋肉が不足している人が多い傾向にあります。これらの人々が年齢を重ねていった将来を想像するとゾッとしてしまいます。
以上のことから、私たちは、どのようにすれば筋肉を適切な状態に保つための運動、すなわち筋トレをもっと沢山の人々が行ってくれるようになるのか、という人々の筋トレに対する行動を変化させることをテーマとして研究を進めています。
研究の特色
私たちは、以前に200人を超える若い一般の成人を対象に、筋トレ(スクワットや腕立て伏せなど)を日々行もらうような仕掛けを考えて実践しましたが、あまり結果が出ず、筋トレをするようになったとしてもすぐに中止している(継続していない)ことが分かりました。やはり、スクワットや腕立て伏せといった筋トレは実践や継続のハードルが高いのかもしれません。
そこで、日常的な活動であれば実践してくれるのではと考え、階段利用に着目し、まずは、1日合計の階段利用量を増加させることが、下肢の筋量?筋力の向上に有効かどうか検討することにしました。世間一般では、階段利用は下肢の筋量?筋力に有効と思われていますが、実はその根拠は殆どありません。結果として、下肢の筋量や筋力は増加しました。さらに、本研究では連続して階段を昇る(例えば1~9階を連続して昇る)ことでなくとも、細切れの階段利用を1日の中で増加させる(例えば1~3階を1日の中で3回に分けて昇る)ことでも十分に下肢の筋量?筋力が増加することが分かりました。この知見は、実践する際の心理的負担の軽減に役立つと思われます(1~9階を連続して昇るのはちょっと勇気がいるけど、1~3階を1日で3回に分けて行うなら出来そう?)。
研究の魅力
最も大きな魅力は、趣味が仕事になっている点でしょうか。私の専門は、大きい括りでは「体育?スポーツ」です。そのため、身体を動かすことが好きですし、筋トレも好きです。すなわち、自分の好きなことを周りの人々に勧める活動が研究となっているわけです。こんなに、楽しくやりがいのあることはありません。まだまだ、研究の途中ですが、筋トレ人口が増え、それによって人々がもっともっと元気になること夢見て活動をしています。
研究の展望
私たちの目標は、集団レベル(国?県?市など)で筋トレ習慣者を増やすことです。そのためには、まだまだやるべきことが沢山あります。今回、筋トレでなくとも細切れの階段利用でも継続すれば効果があることが分かりました。しかし、大事なことは、筋トレや階段利用をどうすれば実際に皆に行ってもらえるようになるのかを明らかにすることです。私たちの分野では、「効果×到達度=社会的インパクト」という考え方があります。すなわち、筋トレや階段利用は「効果」があります。しかし、実際に多くの人にやってもらわなければ(到達度が高くならなければ)、社会に与える影響(社会的インパクト)は小さいということになってしまいます。そのため、この到達度を上げることができるように、心理学的な理論やマーケティングの理論などを用いて、多くの人達に実践してもらう仕掛けを現在検討しているところです。
この研究を志望する方
超高齢社会を迎えた日本においては、予防医学的観点から運動の重要性は益々高まっています。この大事な運動を人々にもっと浸透させる方法を一緒に考えてみませんか?