幼い時期から子どもの個性を伸ばし挑戦する心を育む

sumida-1 皆さんの周りに、虫博士や恐竜博士だった人はいませんか。夏休みに、驚くような緻密で斬新な自由研究をした友達はいませんか。幼い頃から、自然の事物や現象に強い関心を示したり、驚くような抽象的で創造的な思考を示したりする子どもは少なからず存在します。私たちは、理科/科学が好きで得意な子どもの個性や能力、学習スタイルを明らかにし、伸張する教育プログラムを開発?実践しています。日本の子どもたちを対象とした緻密な調査と実証的な分析に基づき開発された隅田式科学才能行動チェックリストは、世界的に注目されています。

研究の特色

野依科学奨励賞の授賞式

野依科学奨励賞の授賞式

 20世紀の終わり頃まで、研究者でさえも、幼い子どもは素朴で周囲の知覚情報に強く影響され、自己中心的な存在だと信じていました。しかし、21世紀にかけて、幼い子どもたちが有する科学的な有能性を示す研究が世界中で次々と提出され、生得的要素の強い初期の科学概念の獲得と変化の「領域」として、素朴物理学や素朴生物学と呼べるような自然認識を有していることが研究者の間で新しい共通理解となりました。幼年期は科学的な探究が行えない時期であるという、従来の発達段階説に基づく科学教育は根本的な見直しを迫られています。
 私たちは、幼年児の学習コンピテンスの再評価とそれを伸長する教育内容?適時性について、科学教育、幼児教育、才能教育及び言語文化教育の観点から検討し、子どもの有能性やその教育可能性について研究をしています。特に、私の研究室では、先駆的に、幼い子どもの知的好奇心を科学的な探究や思考へと拡充、深化、伸長させる幼年児向け(5~7歳対象)科学才能教育プログラム(キッズ?アカデミア)を開発し、実践しています。附属学校園、地域、教員養成の有機的連携のもとで研究が行われるのも特徴です。開発的?実践的な研究成果は、学術雑誌への掲載や招待講演ばかりでなく、野依科学奨励賞(国立科学博物館)を受賞すると共に、新聞等でも継続的に取り上げられています。

研究の魅力

 私たちの研究の魅力は「子どもの驚くべき変化や成長に関わる」ことにあります。子ども期こそが、人生の中のR(esearch) & D(evelopment)期であるとまで主張する研究者もいます。例えば、キッズ?アカデミアに参加した子どもたちは、テーマ「水」で三態について学ぶと、おならやゲップを気体の例として挙げ、帰路で保護者に雲は気体か液体かと尋ねました。水の循環について学ぶと、自宅の水道水の水源や浄化方法を調べたり、家庭で様々に工夫しながら自作の浄化フィルターを何度も作りました。テーマ「ヒトの体」で五感について学ぶと、大きな耳を持つ動物や嗅覚の鋭い動物を探す子ども、身の回りで目の見えない人や耳の聞こえない人のための点字等の工夫を調べる子どもがいました。
 幼い子どもであっても、自分が興味をもったことへの集中力は高く、休憩時間も惜しんで学習活動を行います。科学者が学会発表をするように、自由研究発表会も行います。私たちが研究開発した教育プログラムを子どもが夢中になって取り組むのを見ると達成感がありますし、想像していた以上の高い能力やユニークな個性を子どもが発揮するのを見ると私たちも子どもから多くのことを学びます。もしかすると、未来のノーベル科学者のきっかけを作った教育者?研究者になれるかもれません。

キッズ?アカデミアに参加した幼稚園年長児の浄化フィルター作りに関する実験ノート

キッズ?アカデミアに参加した幼稚園年長児の浄化フィルター作りに関する実験ノート

 

 

今後の展望

 子どもの有能性や才能という概念は、社会文化的要素が強いものですから、通時的?共時的な観点から多面的に議論する必要があります。その一つの取組みとして、現在、Routledge社から以下の3冊をシリーズで発刊予定です。こうした研究成果や議論の国際的な発信は、質の高い新世紀型科学教育世界基準の創成に大きく貢献すると思われます。

sumida_4Taber, K., & Sumida, M. (Eds.) (2016). International Perspectives on Science Education for the Gifted: Key issues and challenges.

Sumida, M., & Taber, K. (Eds.) (2016). Policy and Practice in Science Education for the Gifted: Approaches from diverse national contexts.(12月刊行予定)

Taber, K., Sumida, M., & McClure, L. (Eds.) (2017). Teaching Gifted Learners in STEM Subjects: Developing talent in science, technology, engineering and mathematics.

 少し学校教育からは離れますが、高齢化社会に備える才能の生涯発達的な研究や、人間固有の才能/生物共通の才能を明らかにするために他の動物との比較認知的な研究などにも興味があります。

この研究を志望する方へのメッセージ

 この研究領域にブレイクスルーを起こしているのは、幼い子どもの「本音」を聞き出す手法の開発やそこから明らかになった子どもの有能性です。そして、その教育可能性については多くの未研究領域が残されています。自分よりもずっと年下の子どもと真摯に向き合うことができる人、そして自分自身が「子どもの感覚を備えた大人」で、子どもと一緒に楽しむことができる人が向いていると思います。
 ノーベル経済学者のヘックマンは、幼児期こそが教育投資のリターンが大きいことを明らかにしています。この研究に携わることで、教員志望の方はもちろん、周りの子どもとの関わりや将来の自分の子育て、もしかすると孫との関わりにまで生かすことができる最新の知見を学ぶことができるでしょう。