継ぎ目のない地球科学を目指して
※掲載内容は執筆当時のものです。
惑星内部、他天体との比較から考える地球表層環境の成因
研究の概要
私たちが暮らす地球はどのように形成されたのでしょうか?わたしはとくに生命の起源と進化の場となった表層環境の形成と維持に興味を持って研究を行っています。生命誕生の重要な条件に大気海洋の存在やその化学組成が挙げられます。地球にはなぜ大気や海洋が存在しているのでしょうか?またその質量や化学組成は一体何によって調整されてきたのでしょうか?
地球を始めとした岩石惑星は形成期において高温高圧環境下で大気、マントル、そして核に分離したと考えられています。私は天体内部のマントルや核へ水素や炭素といった大気海洋を構成する主要元素がどれくらい溶け込んだのか?という疑問をもち、高圧発生装置(写真1)を用いて惑星形成期における天体内部環境を再現する実験(写真2)に取り組んでいます。また、地球とほかの岩石天体の表層環境を比較し、その違いから、なぜ地球には大気だけでなく海洋も存在しているのか、についても考察を行っています。
研究の特色
地球とはどのような惑星なのか?惑星表面だけでなく内部構造、そして他天体との比較を通して理解しようと試みています。たとえば、普段接する人の人となりを知るには外見だけではわかりません。また、日本がどのような国なのか、それを理解するには外国との比較を行い、特異な点を探すことが、より日本という国を理解する手助けとなります。
上記のような視点に基づいて地球表層環境の成因を理解するには研究手段を選ばず、時空間的にかなり広い範囲を研究対象として考える必要があります。たとえば、はやぶさ2で得られた試料のような太陽系内の始原的な物質と地球表層の化学組成の比較を行い、その違いが惑星形成過程(たとえば、核-マントル分離)によって引き起こされた、という作業仮説を立て、実験?理論的に検証していきます。とても一人では研究を行うことができませんので、様々な実験や分析手法に精通した研究者と共同研究を行うことでパズルのピースをひとつずつ組み立て、地球とはどのような惑星なのか?を考えていきます。
研究の魅力
自由な発想で研究をデザインし、また、過去から現在にいたる岩石天体表層環境や内部構造の変化の様子を推定(妄想!?)することができるのが一番の研究の魅力かと思います。自分の仮説を学術誌に発表し、自分なりの世界観を構築することができる点はとてもやりがいがあります。
今後の展望
現在は地球や太陽系内の岩石天体を研究対象としていますが、将来的には太陽系外惑星の研究も行っていきたいと考えています。昨今の観測技術の発展は著しく、恒星の化学組成からその恒星系を構成する惑星の主要化学組成を推定することができるようになりつつあります。また、今後、系外惑星の大気組成が観測によって制約できるようになれば、太陽系外惑星の大気-内部相互作用に関する知見も必要になってくることでしょう。そのためにも、太陽系内の惑星に関する大気-マントル-核の相互作用に関する知見がますます重要になってくるのは言うまでもありません。
この研究を志望する方へのメッセージ
地球惑星科学は、自然界で我々が目にするものすべてが研究対象となります。観測対象は複雑な過程を経ているので、その現象を支配する本質的な過程を理解するのは一筋縄ではいきませんが、それを説明することができたときの喜びや楽しさは言葉にできません。
精通した分野や手段を持つことは生きていくうえで重要かもしれませんが、それによって研究対象を狭めてしまうのはあまり好ましくありません。苦手な分野、手法であっても知的好奇心は研究を進めていくうえでの苦労を上回るでしょう。何よりも自分が知りたい事象に時間をかけて取り組む、また研究を楽しむという姿勢がとても大事です。