野外調査と博物館での標本調査

tsubamoto 私が専門としている「古脊椎動物学」は、過去の生物(化石)を研究する古生物学の中の一分野です。ここ最近では、ある程度独立した分野として確立され、認知もされつつあります。古脊椎動物学は、古生物の中でも、我々人類も含む脊椎動物(背骨のある動物)の化石を扱います。つまり、骨や歯の化石を研究します。私は、その中でも、特に、いわゆる恐竜が絶滅した後の時代の哺乳類の化石を研究しています。
現在は主に、ミャンマー、モンゴル、日本から産出する新生代(恐竜が絶滅した後の時代)の哺乳類化石の「記載研究」をおこなっています。これまでの研究で、東アジア地域での化石哺乳類の進化や分布状況が、ある時から、北部と南部とで大きく異なってくることなどを実証してきました。

研究の特色

この「記載研究」というのは、実際に発掘された化石を調べてその形状や産状(産出状態)などを詳しく書きとめて、その化石の種類を決定し、その種類の化石がそこで産出したことの意味を考察していく研究です。記載研究は、古生物学の中では、ある意味、地味で古臭い研究ですが、化石の発展的研究をするのには、欠かせない基礎研究です。何者かわからない化石を分析して結果が出たとしても、その結果を解釈しようがありません。記載研究をして、その化石がどういうものなのかを明らかにすることで、その後の発展的研究に使えるようになるのです。
また、世界中のいろいろな発掘現場や博物館等にしばしば赴くことも、この研究の特色の一つです。旅費等の費用はかかりますが、できる限り世界中のいろいろな化石を自分の目で見て観察することで、化石の理解も深まります。

研究の魅力

モンゴルの研究所での観察

モンゴルの研究所での観察

記載研究の魅力としては、やはり、その化石を自分が世界で初めて詳しく観察して世の中に送り出せるという醍醐味です。新種の化石を学術論文に発表することもあります。
また、化石は壊れてバラバラの状態で見つかることが多いのですが、博物館や野外で化石を見ている時に、化石の破片同士がくっつくことがわかることがあります。このようにして化石をくっつけていくと、バラバラの破片で研究には役に立たないと思ったものが、重要な部位になってきたりすることもあります。大したことないように思えるかもしれませんが、実際に体験してみると、その時は非常に興奮します。

研究の展望

 今後は、アフリカでの哺乳類化石の研究にも力を入れていくつもりです。過去の東アジアの哺乳動物相とアフリカの哺乳動物相との交流は、新生代の哺乳類化石の研究の中では、一つの大きなテーマです。東アジアとアフリカの両地域の化石を比較検討することによって、過去の気候変動と哺乳類の大移動や進化がわかってきます。
また、これは人類学や霊長類学の分野への貢献にもなります。東アジアは約5500万年前に原始的な真霊長類が誕生した地であると考えられているのに対し、我々人類は約700万年前のアフリカで誕生したとされています。その間に、人類に至る系統や、ゴリラ?チンパンジー?オランウータンなどの類人猿が、原始的真霊長類からどのように進化放散してきたのかを解く鍵を、同時代の哺乳類化石の研究も担っているのです。

この研究を志望する方へのメッセージ

 古脊椎動物学を含む古生物学は、過去の生命の進化史や多様性を解明していく分野です。化石は地層中に埋まっているので、発掘調査をして化石を見つけてくる必要があります。その際には、地質学の知識や手法が必要です。また、化石は過去の生物の遺骸であるので、当然、その解析には現生生物学の知識や手法も必要です。また最近では、CTスキャンや三次元スキャナを使ったり、同位体の分析をしたりと、工学や化学の手法を駆使している研究者もたくさんいて、様々な分野にまたがっています。異分野の研究者との共同研究が必要な場合もたくさんあります。そのため、基礎学力はもちろんのこと、人とのコミュニケーション能力など様々な能力が必要となってきます。直接社会で役に立つ専門知識はないのかもしれませんが、面白いと思って選んだ古生物学で実践した基礎能力は、社会に出た時の様々な場面での対応能力に生かすことができるでしょう。