アンチエイジング能力の測定方法の開発

長岡先生 私たちのグループ(向井和男研究員、大内綾研究員と長岡ら)はカゴメ株式会社とともに、「農産物、食品の抗酸化活性測定法『SOAC(ソアック)法』の開発」プロジェクトによって、フード?アクション?ニッポンアワード2012 研究開発?新技術部門の最優秀賞を機関受賞しました。このアワードは、豊かなおいしい国産品の食品に満ちたニッポンに向けた優れた取組を表彰するもので、2012年の応募総数は862件、今回受賞した最優秀賞は部門ごとに1件、計5件選ばれたものの一つです。本表彰は農林水産省の共催で、授賞式には農林水産大臣も列席されました。

賞状 野菜などの農産物は、生活習慣病の原因とされる活性酸素を取り除く抗酸化物質を多く含み、野菜などの食品を効果的に取れば、生活習慣病の予防やアンチエイジングに役立つことがわかってきています。活性酸素は「ラジカル」と「一重項酸素」に大別されますが、これまでは食品が「一重項酸素」を取り除く能力を測定する方法は全くありませんでした。そこで、私たちのグループは、こうした能力を評価する方法(SOAC法)の開発を行い、今回その取組が高く評価されました。

(写真)「フード?アクション?ニッポンアワード2012 研究開発?新技術部門最優秀賞」の賞状

 

研究の特色

理学部で食品の研究だなんて、意外だと思いませんでしたか?でも、最近は科学技術の分野の境目がしだいに無くなってきていて、理学と工学と農学も、あるいは高校で習う理科の4分野である物理、化学、生物、地学も融合しているのです。
私たちは、ビタミンEなどの抗酸化分子と「ラジカル」や「一重項酸素」との反応によって、溶液の色が変わる様子の測定から研究を始めました。対象は生体に関連する分子で、実験方法は物理と化学の境界の領域の方法で、化学の基礎である反応を追いかけています。そして、反応速度の値を正確に計って食品に応用してきました。これまで多くの人たちが、活性酸素を食品が取り除く作用を研究してきましたが、反応速度という化学の基礎となる値を切り口にした研究はほとんど無く、それが私たちの研究の大きな特色になっています。

研究の魅力

20世紀の初めには基礎物理学の発展が他の色々な分野に大きな影響を与えましたが、20世紀の後半から21世紀にかけては、基礎化学の発展が様々な分野の発展を後押ししています。現代は、化学の研究者にとって魅力的な時代と言うことができるでしょう。こうした魅力に惹かれて、私たちは基礎化学に基づいて、抗酸化活性だけではなく、アロエによるUVケア、新しい物質を作るために原材料となる分子を思いのままに切ることができる分子用のナイフの開発など、様々な研究を手がけています。

研究の展望

(写真)平成25年度にSOAC法の卒業研究をしている中村明日香さん

(写真)平成25年度にSOAC法の卒業研究をしている中村明日香さん

SOAC法によって、農産物の抗酸化活性を産地別?品種別に比較し、より抗酸化活性が強いものを見つけられるようになりました。私たちは、食品などが「ラジカル」を取り除く能力を測定する方法も開発しており、ARAC法と名付けています。将来的には、これらの方法が食品表示に用いられて愛媛発の国際基準の方法となり、高い抗酸化活性という付加価値を持った農産物の開発やブランド化の促進に貢献できることを期待しています。こうした付加価値は、最近取りざたされているTPP(Trans-Pacific Partnership)への参加後に日本に流れ込んでくる安い輸入品に、国産品が対抗する有効な手段になるかもしれません。

 

 

この研究を志望する方へ

我々の研究室では複合的な領域の研究を行うため、高校や大学で学習する化学とともに物理や生物などの広い分野の勉強をしておくと、自分の研究内容の理解や実験結果の化学的考察に大きく役立ちます。卒業研究だけではなく就職後においても、日本語による論理的で簡潔な記述や発表の能力と読解力は大変重要です。普段から新聞、教科書、一般書などを参考にして能力の向上に努めましょう。英語読解力はどの分野においても重要なので、地道な努力を続けてください。時代は目まぐるしく移り変わっていて、今日の即戦力は明日には役立たずになることもあるので、若い人ほどしっかりと広く基礎を勉強することが重要です。