情報通信技術と情報処理技術を活かして社会に変革をもたらす
※掲載内容は執筆当時のものです。
人々の「困った」を分散処理技術の研究?開発で解決する
研究の概要
宇和海は、日本一の養殖業地帯です。この水産業を支援する情報?通信システムの研究?開発に取り組んでいます。はやりの言葉で言うと「IoT」と「ビッグデータ集積」です。
海水温などを観測するセンサーネットワークを構築し、宇和海の海況をリアルタイムに収集?集積し、さらには、センサが設置されていない地点については、高精度に補間することで、宇和海全域にわたる海水温情報を提供しています。また、漁業者が日々の営みの中で遭遇する海水の変色に関する報告や、海水サンプルの採取における正確な位置?時刻の獲得を自動的に行えるスマホアプリの開発?公開も行っています。
宇和海海況情報サービス「You see U-Sea」、スマホアプリ「宇和海水産アプリ」で、愛媛の水産業を支援しています。
研究の特色
一番の特色は、研究の進め方といえるでしょう。この研究では、社会における現状を正しく把握し、理想の姿を明確にすることから始めます。その為に、研究室に閉じこもるのではなく、現場に足を運び、観察し、関係者と会話をする。そのプロセスを経て、理想と現実のギャップである問題を明らかにします。関係者が必ずしも理想のイメージを持てている訳ではありません。彼らが語る「課題」が、実は、理想に結びつかない場合も少なくありません。研究の出発は、社会の持つ問題を明確にすることから始まります。
二つ目の特色は、問題解決の為に、自分たちの専門分野である情報通信技術を徹底的に活用し、また、解決に必要な技術がまだ世の中になければ、研究活動を通して生み出す。このようにして、経済的コストや業務負荷の点からも社会で受け入れ可能な実現可能な解決法を考案し、実現まで行っている点です。
三つ目は、研究の成果が、社会の営みに変化をもたらしている点です。スマートフォンの出現は、人々の生活を大きく変えました。同じように、この研究の成果によって、漁業者の営みに変化がもたらされました。宇和海海域の養殖業者数は900弱(H28年度愛媛県調査)ですが、宇和海海況情報サービス「You see U-Sea」(http://akashio。jp)の有効アクセス数は、1日あたり約600となっており、毎日チェックする利用者がいるなど、漁業者の日々の営みに変化をもたらしています。
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サイトはこちらから宇和海海況情報サービス「You see U-Sea」
研究の魅力
「現実の課題を実現可能な方法で解決する」のが学問領域「工学」の特徴です。人類の持っている知識をより豊かにすることを目指す理学と比べると、工学は、知識を増やすだけではなく、その知識を活用することを目指します。工学の「工」は「工夫」の「工」です。「知識」を活かす「知恵」を発揮し、人々の「困った」を、実際に解決する。華々しく出しゃばることなく、こっそりと、気づかれないうちに、でも、しっかりと問題を解決し、人々の生活、営みを変えていく。これこそが工学に携わる楽しさです。
本当に高度な技術は、その存在を隠し、見えなくなります。利用者に知覚されることなく、人々の生活や社会の仕組みや活動に、良い方向、望まれる方向へと変革していきます。
「知識」と「知恵」を活かす研究活動の面白さは、この変革を実感できるところにあります。
今後の展望
水産分野におけるICTの活用は、まだまだ始まったばかりともいえる状況です。私達の研究?開発の取り組みの先にも、例えば、海水温の短時間予測の実現や、甚大な被害をもたらす赤潮や魚病の対策に有効な情報の提供の実現と行った課題があります。ここで紹介した研究を土台に、水産業の現場と密に連携しながら、「現実の課題を実現可能な方法で解決する」ことを目指した取り組みを進める予定です。
この研究を志望する方へのメッセージ
私の研究室では、ここで紹介した水産分野における「困った」を解決する研究?開発だけはなく、企業の持つ課題や、社会にある課題を取り上げた研究に取り組んでいます。
これら取り組みを通して、学術的にも評価される成果を上げています。情報分野で我が国最大の学会である情報処理学会で、研究室所属の学生が、全国大会学生奨励賞を2年連続で2件ずつの計4件受賞するなど、高い評価を受けています。
また、総務省が行った新しいモバイル通信技術である5Gの利活用アイデアコンテストで、私が発案した「5Gの特性を活かした高技能工員の労働環境改善?労働安全確保?技術伝承の実現」が、全国785件中の一位となる総務大臣賞を受賞しました。今年、総務省事業として、NTTドコモ、住友重機械搬送システム、愛媛県、県内の造船所と共に、私の研究室も総合実証実験に取り組む予定です。
情報工学の研究とその成果を活かすことで、社会を変えるイノベーションを生み出す取り組み、「知識」と「知恵」で挑む楽しさを経験して欲しいですね。