ナノスケールの新電子材料を確立する

石川先生 物質が数100nm(ナノメートル、=1/10億 メートル)以下のサイズになると、普通の大きさとは大きく異なる性質が現れるようになります。現在の半導体技術は、このようなサイズでトランジスタやレーザーが作られ、身近な電子機器に使用されています。高校生や大学生の方でも、スマートフォンの普及や信号などがどんどん電球からLEDに置き換わってきたことなどから、自分の子供の頃よりも、多くの電子機器の性能が随分高くなったことを感じることができるかと思います。そこで私は、このように電気を利用したあらゆる場面で機能を発揮する半導体に興味を持ち、次世代の電子機器を生み出すようなナノスケール半導体材料の開拓を目指しています。

直径約300nmの半導体ナノワイヤ群。現在その一つひとつをトランジスタやレーザー、発電素子などにする研究が進められている。

直径約300nmの半導体ナノワイヤ群。現在その一つひとつをトランジスタやレーザー、発電素子などにする研究が進められている。

 

研究の特色

私たちの研究では、おもに結晶成長という半導体を原子層ごとに積み上げる方法で、高精度に構造をコントロールしたナノスケール結晶をつくっています。ただし広く世界各国行われている既存の研究の中で、独自性を出すのはなかなか難しいのが現状です。そこで、なにがしか手法や材質、構造など、どこかを思いつく限り変化させて、一般的なものとは異なるものを作ればどうなるか?というのが現在の研究の大きな方針となっています。

研究の魅力

とりあえず思いついた物を作ってみて、調べるうちにその特性が正確に明らかになっていくのはとても面白く感じています。特にナノスケールの物質は、一般的な大きさのものとは大きく特性の変化するものがあり、まれにですが当初全く考えていなかった特性を示すことがあります。たとえば、現在取り組んでいる半導体ナノワイヤは、一本のワイヤに強い光を当てればそこからレーザー光が出ることが知られており、アメリカの研究者によって発見された当初は超小型レーザーが実現したということで脚光を浴びました。
今回得られた白色発光する半導体/酸化物ナノワイヤは、普通やらないけど何か起きそうなものを、と考えることで得られました。半導体レーザーを作る際に極表面を酸化物に変質させて性能を上げる技術があるのですが、これをナノワイヤに応用したらいいことが起こるんじゃないか?という思いつきで作りました。実際に発光特性を調べてみると、当初赤外領域の一部が光るだろうと予測していたものが、目に見える領域のおよそ全体で光っていて、そもそももとの赤外の発光はどこにも見当たりませんでした。最初はなにかの間違いか、よほどおかしなことをしてしまったのかと思いがっかりしたのですが、やはりどれも同様に白色で光っており、中には青領域が強いものや、緑領域が強いものもありました。全体を見ても、全部のワイヤから間違いなく同様の可視光全域の発光が見えるということで、これは本当なんだなと。そこで広く文献を調べてみると、酸化物のナノスケール粒子はこのような発光をするという報告があり、自分が作ったナノワイヤの外壁はこういった酸化物のナノ構造結晶になっているんだろうと分かりました。
当初は全く予想しておらず、酸化はしたものの実は酸化物の特徴については何も知らないという状態だったので、戸惑うまま徐々に概要が明らかになってきました。ただ知らなかったおかげで、これらが新鮮な驚きになったことは大切にしたい感覚ですし、ここが研究の魅力だとも思っています。

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作製したナノワイヤの構造と発光特性。鉛筆の中に針があるように、長さ5μ、太さ300nmのナノワイヤの中にきれいに太さ100nmの針を材質を変えながら導入できる。発光は、同ワイヤが可視光の広い範囲で光っている様子。

研究の展望

今回報告した半導体/酸化物複合ナノワイヤだけでなく、他にもいろいろできれば“変わったナノ構造“を作りたいと思って研究を行っています。今回の白色発光のような想定外の特徴が出てくると、例えば照明やディスプレイといった、当初と全く違った将来をその都度思い描くことになります。これといった展望を紹介するよりも、むしろ今後、たくさんの予期してなかった展望が出てくるような研究を続けていきたいと思います。
あと研究への取り組み方ですが、現在上記を含め関連研究で国内およびドイツ、スウェーデン、ポーランドの研究者と、ナノワイヤなど材料を提供する形で共同研究を行っています。このような外部機関での特性評価で価値あるものが見出せるよう、確かで正確な試料作製に誇りを持って研究を継続していきたいと思っています。

この研究を志望する方へのメッセージ

 今研究をしていて、好奇心と熱意がとても大切であると感じています。今回紹介した研究を見て、まず「おもしろそう、やってみたい」と思い、そして熱意を持って取り組んで頂ける方、ぜひ一緒に研究をしてもらいたいと思います。

この研究活動は、教員の実績ハイライトにも掲載されています。

教員の実績ハイライトとは、教員の「教育活動」「研究活動」「社会的貢献」「管理?運営」ごとに、特色ある成果や業績を精選?抽出したもので、学内のみならず学外にも広く紹介することとしています。

研究者プロフィール