平成31年1月12日(土)に、南加記念ホールで図書館学術講演会を開催し、学内外から約100人の参加がありました。講師に、松竹株式会社演劇製作部芸文室マネージャーの今井豊茂氏を招き、「規矩を守る~新作、復活狂言を中心に~」をテーマに、映像を交えながら歌舞伎製作の舞台裏や歌舞伎の楽しみ方についてご講演いただきました。
今井氏は、歌舞伎の脚本?演出家として新作の歌舞伎、復活物の脚本、補綴(ほてつ)を手がけています。歌舞伎というと古典のイメージですが、歌舞伎の名作はどれもはじめは新作であり、歌舞伎作者として、自分が携わった作品が後には古典として上演されるよう日々仕事をしていると述べました。
幼少期より、歌舞伎好きな祖母や母に手を引かれ歌舞伎座に通った今井氏は、松竹株式会社に入社し、歌舞伎の脚本?演出家で松竹の役員も務めた奈河彰輔氏に師事しました。師匠である奈河氏から幾度となく言われていた言葉が、「規矩を守る」でした。「規矩」とは「決まり事」という意味で、奈河氏自身「歌舞伎は難しい、よくわからないものだ」と言っていたそうですが、難しくてよくわからない大きな原因は、歌舞伎には規矩という決まり事が多いからであり、それがわかると非常に面白いし、歌舞伎の敷居も低くなると話しました。
今井氏は「押し隈」の掛け軸を見せながら、隈は血管や筋肉の動きをイメージしていることや、赤い隈は正義の味方を、茶色の隈は妖怪変化や鬼を表すというように、色で役の性格がわかることを説明しました。そして、このような決まり事を理解した上で歌舞伎を見ると、舞台に対する集中の度合いが全く違うと述べました。
歌舞伎は伝統芸能なので、先人たちが積み重ねてきたもの、あるいは考案したものを受け継ぎ次の世代へ渡していきます。しかし、それだけでは済まないのが歌舞伎であり、受け継いできたものを一度自分の血肉とし、知識、経験、技術として自分の中に落とし込み、次の世代に渡す時には、何か新しいこと、革新的なものを作っていくという意識が絶えず必要であると述べました。
? また、今井氏脚本?蜷川幸雄氏演出の「NINAGAWA十二夜」のドキュメンタリー番組を紹介し、時にぶつかり合いながらも新しいものを作り上げていく製作過程の一端を解説しました。「十二夜」は、シェークスピア喜劇の代表作ですが、歌舞伎で上演されるのは初めてのことで、今井氏にとっても大きなターニングポイントになった作品です。蜷川氏には、「シェークスピアを歌舞伎の中に趣向として取り入れるのではなく、シェークスピアを歌舞伎にしてほしい」と言われ、稽古場では行動を共にし、何度も議論を重ね何度も台本を書き直しましたが、蜷川氏は「作品がちゃんと歌舞伎になっているか」と絶えず今井氏に問いかけ、歌舞伎の規矩を守っていかなければならないことを言わず語らずともわかっていたと話しました。
? 隈取や衣装の色など規矩(決まり事)の何かひとつでも知って歌舞伎を見ると、歌舞伎の楽しみや理解がより進んでいきます。そして、「歌舞伎は難しい」といっていたことが楽しいものになり、こんなに面白いものがあったのかと思ってもらえるのではないかと話しました。
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