今回の発見は、畑助教が京都大学の渡辺勝敏准教授?加藤真教授と共同で突き止めたもので、平成22年6月18日(金)に英国の専門誌『BMC Evolutionary Biology』において発表しました。
”Geographic variation in the damselfish-red alga cultivation mutualism in the Indo-West Pacific. BMC Evolutionary Biology, 10: 185.Doi: 10.1186/1471-2148-10-185”
この成果は、New York Times紙、Science Daily紙、京都新聞、朝日新聞、讀賣新聞、毎日新聞と国内外のメディアで取り上げられました。
概要は以下のとおりです。
【概要】
スズメダイによる紅藻栽培の、インド?西太平洋でみられる地理的変異
【背景】
サンゴ礁では、スズメダイが藻食者から餌となる糸状藻類を囲い込んでなわばりを維持している。今までの研究で、沖縄ではクロソラスズメダイは、選択的な除藻によって、消化しやすく餌として適したイトグサ属紅藻の一種が単作となった畑を持つこと、一方このイトグサは、なわばり外ではすぐに食べ尽くされ、また除藻がなければ雑藻に被覆されるため、このスズメダイのなわばりを唯一の生息場所としていることがわかっている(図1)。この関係は、ヒトと栽培植物との関係になぞられ、栽培共生と呼ばれている。このスズメダイはインド?太平洋に広く分布するため、本研究では、この栽培共生がこの分布域で広く維持されているかどうか明らかにするため、エジプト、ケニヤ、モーリシャス、モルディブ、タイ、ボルネオ、沖縄、オーストラリアにおいて計18種のスズメダイのなわばり内外で藻類群落を調べた。
【結果】
沖縄に加え、モーリシャスとオーストラリアでもクロソラスズメダイは同一のイトグサ種をなわばり内に繁茂させ、栽培していることが分かった(図2)。また他の海域のクロソラスズメダイは、このイトグサと極めて近縁な別のイトグサ種を用いていた。これらのイトグサはいずれも、このスズメダイのなわばり以外には全く生息していなかった。一方、クロソラスズメダイのなわばり内の藻類の畑の組成は、海域により異なり、沖縄ではイトグサ1種のほぼ単作であったが、他の海域では、複数のイトグサ種や、他の糸状藻類も入ってくる混作であった。
【結論】
クロソラスズメダイとイトグサとの栽培共生は、インド?西太平洋で広く維持されていた。しかし栽培される藻類の組成は海域で大きく異なることがわかった。この違いは、スズメダイの管理が集約的なもので、狭い単作藻園を維持しているか、粗放的なもので広い混作藻園を維持しているかの違いであると考えられる。これらの栽培共生関係の地理的変異を調べることは、ヒトによるドメスティケーション(家畜化、栽培化)の初期過程を知る上で重要な知見を提供するだろう。
<理学部>