平成22年度科学研究費補助金に採択された沿岸環境科学研究センター 鈴木聡教授からメッセージをいただきました。
科学研究費補助金 基盤研究(A) 平成22年度採択課題
複合汚染環境における薬剤耐性遺伝子の消長とヒト病原菌への伝播リスク
沿岸環境科学研究センター 教授 鈴木 聡
サイエンスのネタが新聞の一面トップ記事に取り上げられることは少ないが、近年では多剤耐性菌の問題が毎年のように取り上げられている。特に日和見感染菌である緑膿菌、アシネトバクターの二つが悪役スターになっている。細菌の薬剤耐性能は遺伝子に担われた特性であり、耐性遺伝子の多くは細菌間を飛び回ることができる。これを遺伝子の水平伝播という。薬剤耐性遺伝子はどこでなぜ発生し、どうやって広がるのだろう?
本課題では、多剤耐性菌および耐性遺伝子群の、水圏環境中での発生と伝播にフォーカスを当て、環境微生物群集内での遺伝子伝播の実態、および環境に常在するヒト日和見感染菌への伝播リスクを明らかにすることを目的としている。特に、金属汚染や抗生物質以外の有機化学汚染が抗生物質交差耐性菌を発生?拡散させている実態と機構に着目している。化学汚染は二次的に薬剤耐性発生にも関与している可能性がある。
これまでは、主に病院内での薬剤耐性菌リスクが注目されてきたが、環境で起こっている細菌たちの薬剤への対抗作戦を分子生物学的?生態学的アプローチで研究することで、今後病院や食品の衛生管理に対して環境科学から新たな施策が生まれることが期待できる。
本研究の構想に至った経緯としては、私が代表を務めた平成14?16年の科研費基盤(A)、平成15?18年の文科省「人?自然?地球共生プロジェクト」、および平成19?22年の科研費基盤(B)(海外)などによる遺伝子の伝達機構の研究、アジア諸国の水圏環境での化学汚染と耐性菌出現の実態研究を行ってきたことが基盤となっている。今後、水環境と人間生活圏の間で変化しながら飛び回り、定着する耐性遺伝子の具体像を明らかにしたいと思っている。
どうしたら科研費に採択されるか?とよく聞かれる。それには「コツがある」のだ。紙面の都合でここに詳細は書けないが、採択確率の高い人にはそれなりの理由があるので、そのような人に学ぶのが手っ取り早いであろう。また、How to以外で重要なのは、審査員に安心感を与えるかどうかだろう。「この人なら成果を期待できる」と思ってもらうことだ。過去にしっかりした実績がなければ、いくら将来を語っても絵に書いた餅だと評価されてしまう。まず、足下を固めることである。小さな資金でもレベルの高い研究は可能である。まずは、お金に頼らず自分のアイデアでできる所から始めよう。外部資金はおのずとついてくる。