平成23年度科学研究費補助金に採択された農学部 竹内 一郎教授からメッセージをいただきました。
科学研究費補助金 基盤研究(B)平成23年度採択課題
PCB全異性体209種の超微量分析による非意図的生成PCB異性体の探索
農学部 教授 竹内 一郎
残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約 (POPs 条約)が2004年に発効し、世界規模でポリ塩化ビフェニール (PCB)等の残留性有機汚染物質(POPs)の製造?使用?輸出入の禁止または制限を実施していこうとしています。POPsのうちPCBは209種の異性体からなる化学物質であり、生態系内での挙動や各種の生物への毒性影響等の多くの研究が古くから実施されていました。そのため、POPs 条約の発効の30年も以前の1970年代より、日本やアメリカ合衆国では新たな製造?使用が原則禁止されてきました。しかし、近年でも日本近海の海洋生物からはPCBが検出されており、この10年間でみるとPCBs濃度は顕著に減少しているとは言い難いのが現状です(環境省 2009)。
このような状況下、2010年にEnvironmental Science & Technology誌でPCBsの特集号が発刊されました。本誌はアメリカ化学会が発行している環境化学分野における国際的に最も重要な学術雑誌の一つです。このなかで、209種のPCBの異性体のうち、それほど研究対象となっていなかった非意図的に生成された異性体がResearchers find little-known PCB “pretty much everywhere”と称されるほど、様々なところから検出されることが報告されています(Fraser 2010)。日本をはじめとするアジア諸国においても、非意図的に生成されたPCB異性体の分布等の実態やそれらの毒性評価を推定することが喫緊の研究課題であると考えられるようになってきました。古くから研究されてきた環境化学物質であるPCBが、今なお、環境科学において重要な研究対象であることが再認識されるようになったといっても良いかと思います。
我々の研究グループが兼担する農学部附属環境先端技術センターでは、高分解能ガスクロマトグラフ質量分析計等により、PCBの全209種異性体の超微量分析を行うことができます。そこで、我々は、本研究において、日本近海域等から採集した魚類中のPCBの全209種異性体の濃度インベントリーを作成し、それらのデータから非意図的に生成されたPCBを探索し、更には新たな環境政策の立案等に役立つことができればと考えています。このように、本研究の申請がPCBに関する研究の再評価の機運が高まってきた時期とかさなったのが採択に結びついたのではと思っています。