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工学部の平田章助教、堀弘幸教授らの研究クループが、慶応大学、NASA、カリフォルニア大学のグループと連携し、世界最小クラスの生命体ARMANのRNA介在配列除去システムの構造を解明しました【9月1日(土)】

 生命は、真核生物、真正細菌、古細菌の三つに分けることができます。ARMANは古細菌の一種ですが、細胞の大きさが、わずか0.0002 mmしかありません。すなわち、細胞の体積が、大腸菌の数100?1000分の1程度しかない世界最小クラスの生命体です。この細胞のサイズは、生命を維持するため必要な遺伝子やタンパク質をぎりぎり詰め込める大きさではないかと考えられています。
 ところが、ARMANのtRNA遺伝子群には、多くのイントロン(介在配列)が入っています。遺伝子の大きさを限界まで切り縮めているARMANのtRNA遺伝子に、なぜ不要と思われるイントロンがコードされているのでしょうか?しかも、それらのイントロンには、通常のRNA介在配列除去システム(tRNAスプライシングエンドヌクレアーゼ)では切断除去できない変則的なものも含まれています。アミノ酸配列を調べると、どうやらARMANのRNA介在配列除去システムは、これまで知られていたRNA介在配列除去システムとは、異なる構造を保持していると予想されました。
 この新型RNA介在配列除去システムは、実際にどのようなタンパク質構造をとっており、どうやって変則的イントロンを切断し、tRNAを成熟(完成)させているのでしょうか?
 これらの疑問に答えるため、工学部の平田章助教、堀弘幸教授、大学院生の山上龍太さん、河村卓哉さんの研究チームは、慶応大学の金井昭夫教授、アメリカ航空宇宙局(NASA)エイムズ研究所の藤島皓介研究員、カリフォルニア大学バークレー校のJillian Banfield教授と共同で、ARMANのRNA介在配列除去システムのX線結晶構造解析を行いました。
 その結果、この新型RNA介在配列除去システムは、非常に長い2つのペプチドリンカーで、3つのピース(タンパク質サブドメイン)をつなぎとめた前例のないサブユニット構造を持つことが判りました。また、変異酵素の解析結果から、新型RNA介在配列除去システムに特有のループ構造と塩基性アミノ酸残基で、変則的イントロンを識別するということが明らかとなりました。どうやら、ARMANは、RNA介在配列除去システムを変則的イントロンが切断できるように独自に進化させたようです。
 これらの研究成果は、生命の限界で起こっている分子進化の一端を解明したとも言えます。
 なお、この研究の詳細は、Nucleic Acids Research誌電子版に先行掲載されました。

図1 世界最小クラスの生命体ARAMAN

図1 世界最小クラスの生命体ARAMAN

図2 これまで知られていた変則的イントロンを切断可能なRNA介在配列除去システム(左)とARMANのシステムの比較(右) これまで知られていたシステムでは、2種類のタンパク質サブユニットが4つ組み合わさっているが、ARMANのシステムでは、これらがシャッフルされ、3つのピースが2つのリンカーでつながったサブユニットが2つ組み合わさっている。

図2 これまで知られていた変則的イントロンを切断可能なRNA介在配列除去システム(左)とARMANのシステムの比較(右)
これまで知られていたシステムでは、2種類のタンパク質サブユニットが4つ組み合わさっているが、ARMANのシステムでは、これらがシャッフルされ、3つのピースが2つのリンカーでつながったサブユニットが2つ組み合わさっている。

図3 ARMAN RNA介在配列除去システム(tRNAスプライシングエンドヌクレアーゼ)の立体構造   全体構造をリボンモデルで表示した。らせんを巻いている部分がα-へリックスで、矢印で表示しているのがβ-ストランド。3つのピースを色分けし、リンカーは黒で示してある。

図3 ARMAN RNA介在配列除去システム(tRNAスプライシングエンドヌクレアーゼ)の立体構造
 全体構造をリボンモデルで表示した。らせんを巻いている部分がα-へリックスで、矢印で表示しているのがβ-ストランド。3つのピースを色分けし、リンカーは黒で示してある。

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