お知らせ

渡辺誠也農学部准教授ら研究グループが、コラーゲンに特異的に含まれる特殊アミノ酸の微生物による代謝経路を世界で初めて解明しました【7月26日(木)】

 渡辺誠也農学部准教授と東洋大学生命科学部の福森文康教授、愛媛県立衛生環境研究所の四宮博人所長(元足球即时比分_365体育直播¥球探网大学院医学系研究科准教授)、無細胞生命科学工学研究センターの戸澤譲教授らのグループは、コラーゲンに特異的に含まれるL-ヒドロキシプロリンのシュードモナス属細菌による代謝経路に関わる遺伝子群(酵素群)の同定に世界で初めて成功しました。本研究成果は、アメリカ生化学会誌「The Journal of Biological Chemistry」10月号掲載に先駆けて、日本時間2012年7月26日にオンライン速報版で公開されました。

Seiya Watanabe、 Daichi Morimoto、 Fumiyasu Fukumori、 Hiroto Shinomiya、 Hisashi Nishiwaki、 Miyuki Kawano-Kawada、 Yuuki Sasai、 Yuzuru Tozawa、 and Yasuo Watanabe.
Identification and characterization of D-hydroxyproline dehydrogenase and Δ1-pyrroline-4-hydroxy-2-carboxylate deaminase involved in novel L-hydroxyproline metabolism of bacteria: metabolic convergent evolution.
doi:10.1074/jbc.M112.374272

 最近の機能性食品?美容ブームで注目されているコラーゲンは、人間の全タンパク質の1/3を占めています。コラーゲンを構成するアミノ酸は、グリシン?L-プロリン?アラニンが全体の2/3を占めるという非常に偏った構成となっており、さらにL-プロリン(以下、L-Pro)は翻訳後修飾により水酸化されL-ヒドロキシプロリン(以下、L-Hyp)となります。このように、L-Hypはコラーゲン特異的なアミノ酸であることから、生体試料中のコラーゲン含有量を見積もる際の指標として用いられています。L-ProとL-Hypは非常によく似た構造ですが、通常の微生物はL-Hypを栄養源として利用することができません。一方で、シュードモナス?プチダ(Pseudomonas putida)やシュードモナス?エルギノーサ(Pseudomonas aeruginosa)などのごく少数の細菌はこのL-Hypを栄養源として生育可能なことが知られており、合計4個の酵素(遺伝子)がその代謝に関わっていると考えられていましたがその詳細は分かっていませんでした。

block_46172_01_l

 

 渡辺准教授は、2007年に他の細菌を用いてこのL-Hyp代謝経路の最後の反応を触媒すると考えられる酵素LhpG遺伝子の同定に成功していました(J. Biol. Chem.、 2007、 282、 6685-6695)。Ps. putidaとPs. aeruginosaのゲノム上では、このLhpG遺伝子の近傍に機能未知の遺伝子がクラスターになっており、それらを大腸菌やPs. putidaを宿主として組み換えタンパク質を作らせ解析を行うことでLhpG以外の3つの遺伝子の同定に成功しました。興味深いことに、Ps. putida のD-Hyp脱水素酵素は単一の遺伝子でコードされ補因子としてFADのみを含む一般的なアミノ酸脱水素酵素とよく似ていたのに対して、Ps. aeruginosaの酵素は分子量の異なる3つのサブユニットからなり補因子もFAD?FMN?4Fe-4Sクラスターを含む複雑な構造をしていました。これは、同じL-Hyp代謝経路がPs. putidaとPs. aeruginosaの中で独立して進化した(収斂進化)ことを強く示唆するものです。

 院内感染を引き起こす緑膿菌であるPs. aeruginosa PAO1株など、L-Hyp代謝経路は病原菌が多く持つことも分かりました。実は、ヒトやマウスなどの哺乳類にもL-Hyp代謝経路は存在しますが、今回発見された細菌のものとは全く異なるものです。これは、細菌のL-Hyp代謝酵素が創薬の有望なターゲットになりうることを示唆しています。また、コラーゲンの定量のためのL-Hyp分析は、高価な機器が必要な高速液体クロマトグラフィー(HPLC)が主流です。これに対して今回発見した酵素を用いて、L-Hyp異性化酵素によりサンプル中のL-HypをD-Hypへ異性化したのちD-HypDHの反応を分光学的に測定すれば、簡便?安価?迅速なL-Hypの酵素学的定量法が開発できます。既に特許を出願しており、今後さらに研究を進めていく予定です。

渡辺誠也、森本大地、笹井雄貴
コラーゲン由来L-ヒドロキシプロリンの酵素学的定量に応用可能な新規酵素群
特願2012-147934
出願日2012/6/29

<農学部>